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fairy's track第十三話

 ブログ妖精ココロのアンソロジーコミックが出たらしいです。まだ買ってないけど。


 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話
 第五話
 第六話
 第七話
 第八話
 第九話
 第十話
 第十一話
 第十二話

 本文は続きを読むから。

  ◇


 ピアに促され、ココロたちは大広間端にある小部屋へと場所を移した。ココロたちが移った部屋はジーテがいた部屋と似たような位置にあるはずなのに、ジーテの姿は見えなかった。訪問者を拒むような本の山も見あたらない。
 ココロが不思議に思ってメフィーエドルに声をかけるも、しかめっ面で口を結んだメフィーエドルはなにも答えてくれない。小部屋はジーテがいた部屋とは違い、本がうずたかく積み上がっているということはなく、最初にココロがピアといっしょに訪れたときのまま、静謐と微睡みに沈んだランプの光が照っているだけだった。
 ココロがピアを見失ってから起きたことを話すと、ところどころでピアは興味深そうに相づちを打つ。ココロがあらかた話を終えそうになったとき、それまで横で黙って聞いていたメフィーエドルが力のない声をどちらへともなく投げかけてきた。

「それで、メフィはいつになったらかえれるのね」

 メフィーエドルの言うところがとっさに理解できず、ココロは首をかしげた。

「え? あれ? あ、お家に帰るの?」
「ジーテせんせーのところなのね」
「ジーテさんの場所って、ここじゃないの?」
「ちがうのね。ここは、べつの……おなじだけどべつのばしょなのね」

 ココロは建物の構造を考えるため、中空で目印を描こうとしたが「あっちがあれで、こっちがあれで……ええと」すぐによくわからなくなったのでやめた。

「反対側とかにあるのかな。ココロもいっしょに行くよ」
「ちがうのね。ここはべつのばしょなのね」
「う? うん。だからジーテさんのいるお部屋まで……」

 要領を得ないメフィーエドルの言葉で増える疑問符を意識のはしっこにおしやりつつ、ココロがなおもつづける。メフィーエドルが鈍重に答えた。

「ここはべつのたてものなのね。ここにジーテせんせーはいないのね」
「べつの? え、どういうこと? ココロたち、外に出てないよ」
「おかしいとおもったのね。どらごんがいるはずないのね」

 メフィーエドルがピア、ココロと順に見てから、言葉をつづけた。

「ここはメフィがいたようせいかいじゃないのね」

 最初、ココロはここでもまたメフィーエドルの言ってる意味がわからなかったが、べつの妖精界という言葉にふとジーテとの会話を思いだした。たしか、ジーテもそんなことを言っていた。ココロがべつの妖精界の住人なのではないかといったようなことを。
 ジーテとの会話のことを考えることでちいさなくぼみのような思考に落ちたココロを引っ張りあげたのは、とくに驚いた様子もないおだやかなピアの声だった。

「妖精の泉を渡ったんですね。まさか本当にそんなことが起きるなんて」

 メフィーエドルがうなずいた。

「そうかんがえるのがだとうなのね。……そっちのアンポンタンにつれてこられたのね」

 ココロの視線がメフィーエドルと真正面からかち合う。びっくりして、目をピアのほうにそらすと、ピアもココロをまっすぐ見ていた。

「え? あんぽ……え?」

 二人の視線に気圧されて後ずさりしながらも、あんぽんたんってなんだったっけーと、すこしだけ頭をよぎったものの、そんなことはすぐに思考の外へと放りだされた。ココロが妖精の泉を渡った、らしい。渡るということは、どこかからどこかへ移動したということだ。どことどこだろう。

「妖精の泉って、どこに繋がってるの?」

 ピアとメフィーエドルを下から見上げるようなつもりで、ココロは素朴な疑問をそのまま口に出した。

「そうですね。すこし長くなりますけど――」

 ピアは若干ペースを落として話しはじめた。

「妖精の泉は人間界のデータベースを源流にしているというのが現在の通説なんですよ。人間界の様々な情報がテキストや画像データとして妖精の泉へ流れてきてますから。もちろん、物もね。本や食べ物などが流れてくることもよくあって、日夜データベース管理室で照合、解析が行われています。なので、妖精の泉は人間界と繋がっていると考えられていますね。ただ、いまのところ、こちらから人間界へに向けての情報送信が成功したという実例はないから、繋がっているといっても不可逆なプロトコルである――わかりにくければ、一方通行という解釈でもいいですよ――そういう可能性があります」

 妖精の泉が人間界に繋がっているという話はなんとなく知っていた。ブランから聞いた話のなかにそんな話があったような気がする。気づいたらそこかしこにあふれている人間界の情報や物は妖精の泉を通ってきたのだと、あらためて考えてみると、どこかココロの奥深いところでパチッと理解が点灯した。ココロがおとぎ話を読むような感じで人間界の話を不思議に思ってたのは、どうやってココロたちが人間界のことを知ることができるのかわからなかったからだといまなら理解できる。
 ココロがうんうんと自分を納得させる為にうなずいていると、ピアがちいさく笑って話をつづけた。

「他にも多くの説がありますけど、それは置いておきましょう。妖精の泉が人間界のデータベースに繋がっているという説の中でも、いろいろと考察が為されていまして、その中に『妖精界は妖精の泉がそうであるように、複数存在し、それぞれの妖精界には性質に適したコーデックがある』という主張があるんです。つまり、妖精の泉は、人間界と妖精界を繋いでいて、また性質の違う妖精界同士もまた同様に繋いでいるという可能性がある――ココロちゃんの話を踏まえて、現時点でわたしが言えるのはそれぐらいです」
「はへー。みんなそんなこと考えてたんですね。はじめて知りました」

 正直なところ、ココロにはピアの言っていることがよくわからなかったが、次から次にでてくる新事実っぽい話にすっかり感心してしまった。妖精界には謎がいっぱいあるようだ。
 ココロがぼんやりとピアの言葉を反芻していると、メフィーエドルがピアに向けて質問を投げかけた。

「こーでっくはなんのことなのね」
「エンコード、デコードはわかりますか?」
「わかるのね。きじゅつほうそくのへんかんなのね」
「コーデックは、それらを処理するために必要な相互通信を行う通路のようなものです」
「それぞれのようせいかいにこーでっく……なるほどなのね、こんかんぶぶんにうまっているのね。そのりくつならたんじゅんなデータのつうしんがおこなえないことをせつめいするにはじゅうぶんなのね。データをこーでっくにとおしてないからなのね。ふくすうのようせいかいがへんざいするのは、たぶん、にんげんかいからのトラフィックをにがすためにようせいかいのじょういそうからそうたいパスでデータいどうのかんりをしてるのね」
「相対パス? 妖精界同士をつなげている中継地点が存在するということでしょうか」
「すいそくなのね。ディレクトリのばしょがわからないことにはなんともいえないのね。ジーテせんせーもようせいかいがへんざいするかもしれないことについていろいろかんがえてたのね。ディレクトリのばしょがわかるか、こーでっくをとおすほうほうがみつかればいいのね。そうすればルートディレクトリもわりだせるのね」
「妖精界が遍在しているという推測は、やはりそちらでも現存している建造物の解析から――」

 二人がなにを言っているのかさっぱりわからず、ココロはほけーと二人を眺めていた。口が空いていたかもしれない。そんなとき、ふと自分の肩が視界に入り、そういえば羽はどうなったんだろうと思った。
 羽がなくなっていることに気づいたのはピアに話をしているときだった。いまは飛ぼうと思ってもまるで身体が浮かない。さっきも、ドラゴンに助けてもらわなければ地面に衝突していただろう。しかし、喪失感はまったくない。もともと羽がいきなり生えたときも、なぜか『新しく手に入れた』という気がしなかった。だから無くなったことがわかってもたいした感慨を抱くことができなかったのだ。それに、まだどこかであの羽がココロを待っているような、そんな予感があった。それがどこなのか、まるでわからないけれど。



 メフィーエドルとの話に一段落がつくと、ピアが大広間上の隠し通路にある小部屋へと向かうことを提案した。ココロはピアに引っ張りあげられたが、メフィーエドルは本の力を使ったのか、本を片手に軽々と飛んでいた。
 メフィーエドル曰く、「このようせいかいはかれてないのね。とぶなんてかんたんなのね」らしい。ケガを治したり、黒い蝶をやっつけたり、空を飛んだり。「壁画妖精さんってすごいねー」とココロが本心から称賛すると、メフィーエドルは真一文字に口を結んでプイッとそっぽを向いた。なぜか機嫌をひどく損ねてしまったようだった。

 まもなく妖精の泉がある小部屋に訪れたココロたちだったが、三人を迎えいれたのは天井から降る水滴に揺れる水面の波紋だけだった。メフィーエドルとピアはなにかと調べていたが、結局なにが起こるでもなく、無為に時間が過ぎていった。やがて時間も遅くなったので、ココロたちは部屋をあとにしなければならなかった。

「どうしよう……フィーちゃん、帰れないの?」

 小部屋をでて、地下二階に戻ってきたときには、ココロもだいたいの事情がわかっていた。メフィーエドルはべつの妖精界の住人なのに、ココロが帰るときにいっしょに連れて帰ってきてしまったようだ。

「ふん。どうせようせいかいなんてどこもにたようなもんなのね。ちょっとのあいだかえれなくてももんだいないのね」

 そう言いながらも、メフィーエドルの視線は床に落ちている。ココロは罪悪感で身体に氷を押しつけられたような痛みが広がっていくのを感じながら、頭を抱えなければならなかった。どうすればいいのだろうか。まったく思いつかない。そもそも、ココロよりずっと頭の良いピアやメフィーエドルが考えても手がないということは、ココロが考えたところでなにができるというわけではない。しかし、そんなことも言っていられないのだ。

「なんにしても、今日は遅いから。一度帰りましょう。メフィちゃんはわたしの家に――」
「はいはい! ココロが! ココロの家に来てよ、フィーちゃん!」

 ピアの言葉を聞いてココロの思考に閃きが走った。思わずピアの声をさえぎって勢いよく手をあげる。

「うるさいのね。べつにいいのね。ほんがたくさんあるここのほうがいいのね」
「ダメ! ココロのとっておきのメロンソーダあげるから!」
「じゅーすなんていらないのね。とっととかえるがいいのね」
「ううん、ダメだよ! ひとりでこんな寂しいところにいたら、まっくらになっちゃうよ!」
「なにいみのわからないこといってるのね。ばかなのね」
「すごいシーンとしてるし、オバケだっているし、ドラゴンだっているし。ここのドラゴンさんは怖くてもいい人だけど! でもやっぱりひとりは怖いよ! 寝られないよ!?」
「メフィはだいじょうぶなのね。よけいなおせわなのね」
「ダメです! ダメです! ココロがフィーちゃんを守ります!」
「……ほんとにうるさいやつなのね」

 呆れを多分に込めた声でメフィーエドルが答えた。ココロはなにがなんでも押し通すつもりだった。メフィーエドルの手をとって、ずんずんと歩きだす。メフィーエドルは初めこそ歩みが重かったものの、それ以上抵抗はしなかった。



「こらああーーーっ!!!」
「ひうぃっ!?」

 ココロたちが地下一階に上ろうかとしたとき、急に怒声が飛びかかってきた。ココロは思わずびくりと身体をのけぞらせる。

「こんな遅くまでなにしてるの、あなたたちは!」

 ユユだった。ココロは平謝りするしかなかった。なんでも、最後の見回りをしていたところらしい。

「すこし立て込んでいたところでして。いまから帰るところです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 ココロに続き、ピアが流麗な口調で謝罪の言葉を並べると、ユユはなんとか怒りをおさめてくれた。

「しょうがないわね。ココロちゃんがずいぶん遅いなと思ってたけど。まさかピアまでいっしょになってたなんてね。勉強でもしてたの? もうこんなことないようにね」

 一通り注意をした後、ユユは不思議そうな顔でココロが手を繋いでいるメフィーエドルを見て、

「――ところでそっちの子はどうしたの。見慣れない顔だけど。今日受付に来た?」
「遊んでいて迷い込んでしまったみたいです。ついさっき見つけたんですよ。いまからココロちゃんが送り届けることになりました」

 ココロが言葉に詰まると、ピアが先に答えた。メフィーエドルはピアの答えに対してなにも言わなかった。顔をそらしたまま、黙っている。ユユはとくに疑問を抱いたふうでもなく、ふーんとつぶやいただけだった。ココロは内心どきどきしながら「そうなんですよー、あははー」となんとか笑ってみせる。上手く誤魔化せたようだ。
 ココロがはやくこの場を離れるため、ユユとの会話を切り上げて先へ行こうとした。しかし、それを制すように呼び止めの声がかかる。

「ココロちゃん、これ、持って帰ってくれる?」

 ピアから渡されたのは一冊の本だった。暗くてよく見えないが、目立った装丁はないようだ。よくわからなかったが、ココロは本を受け取ってうなずいた。

「わたしはユユさんにお話があるから。ここでさよならね。あなたも」

 ココロとメフィーエドルをそれぞれ見て、ピアが微笑んだ。ココロはピアがわざわざユユさんをここに留めておいてくれるのだと思って、二人に別れの挨拶を告げ、メフィーエドルの手を引いたままそそくさと逃げるように図書館『地下の妖精』を抜けだした。当然のように、もう誰も図書館には残っていなかった。
 図書館を出たココロとメフィーエドルを夜が待っていた。どこかから、虫の鳴き声が聞こえる。ところどころに灯りとして飾られている黄星花を追うように家路を進んでいると、ふいにメフィーエドルが立ち止まった。

「このようせいかいは、しずかなのね」
「そんなことないよー。お昼はみんなあっちこっちで遊んだりしてるもん」
「そうじゃないのね。そういうのじゃないのね」

 メフィーエドルはそれ以上なにも言わず、ココロが手を引くままついてきた。ココロも追求することはしなかった。
 やがて、ココロの家が見えてきた。ココロはとっておきのメロンソーダをメフィーエドルが気に入ってくれるかどうか、すこしだけ心配しながら歩を早めた。
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