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fairy's track 第十一話


 ココロ達の戦いはこれからだ!

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話
 第五話
 第六話
 第七話
 第八話
 第九話
 第十話

 本文は続きを読むから。


/fairy's track/



 暗い通路を無我夢中で抜けると視界が開けた。本棚の壁がたくさん並んでいる。ココロは隠れられそうな場所を見つけ、地面に降りた。

「ここ、どこ……」

 ついさっきまでピアと同じ部屋にいたはずだった。しかし、気づくとピアがいなくなっていた。変な子供に追いかけられた。
 そして――

「あっ! やっぱりある!」

 背中にひっついている白いものを手で引っぱる。背中から生えているのか、強く引っぱるとすこし痛い。ピアやブランの羽ほど大きなものではないが、立派な羽だ。しかも思うどおりに動かすことができる。いままで一度も羽を使って空を飛んだことがないはずなのに、中空で静止することも簡単にできる。

「わあ、すごく便利!」

 ココロは歓喜して近くを飛びまわった。スピードを出すのも思いがままだ。
 いままで幾度となく背が小さいことで苦労してきたが、これがあれば毎日の生活がとても快適になるだろう。電球をかえるときに椅子を二段重ねにしなくてもいいのだ。そして登校時間も短縮できるだろう。これでギリギリまで寝ていられる。これから訪れるであろう優雅な毎日を夢想する。
 ブランに見せたら、なんと言うだろうか。はやく家に帰らなければ。
 ココロはさっそく帰ろうと道を戻ろうとしていたが、ふっと我に返り、ピアのことを思いだした。さすがになにも言わずに帰るわけにはいかない。そもそも、ピアはどこに行ったのだろうか。ちょっとぼやーっとした直後に、いきなり落下して……。

「ピアさん、どこいっちゃったんだろ」

 地面に降りて、壁際を歩いていく。背の高い本棚に置かれた不思議な模様のようなタイトルを持っているたくさんの本。辺りを見回していると、またもや既視感を覚えた。いや、今度のものは既視感と呼ぶほどあやふやなものではない。ココロは確信する。

「ここ、さっき通った場所だ。こっちにいるのかな」

 つい先ほど、ドラゴンに頼まれて向かった場所だ。同じようにまっすぐ進んでいくと、やはりそこに見たばかりの扉があった。アーチ型で、とくにこれといった模様のない扉だ。ココロは扉に手をかけ、部屋の中をそろりそろりとのぞき込む。小声で呼びかける。

「ピアさーん……」

 部屋の中に人影が見えた。ココロの声に反応して、扉のほうに人影の意識が向けられたのがわかった。ココロは安心して駆け寄る。

「よかったー。なんか急に変なところに……だれ?」
「それはこちらが訊きたい」

 椅子に座っていた人影はココロよりもいくらか年上に見える青年だった。少なくともピアではない。万年筆を握り、ノートと向かい合っている。なにか書き物をしていたのだろうか。顔を上げて、驚いた様子でココロを凝視している。

「見たところ原初の妖精のようだが……君は誰だい?」
「ゲンショの妖精……? あの、ココロはココロですけど……あ、ブログ妖精の見習いです。ニフニフ虹立ブログ妖精学校に通ってます」
「学校? ブログ妖精? 君は、外からここに来たわけではないのか? ……ああ、失礼した。椅子は……本の下か、その辺りに適当に腰をおろしてくれ」
「はぁ」

 ぞんざいな口調で促され、ココロは辺りをちょっと見回してみたが、本があちらこちらに積まれていてとても座れるようなスペースはない。積み重ねられている本の上に座るわけにもいかず、ココロは座るのを諦め、青年に訊ねた。

「あの、あなたは?」
「僕がどうかしたかな」
「いえ……お名前を」
「……不思議なことを言うね。わざわざこの『地下の樹』にまでやって来たんだ、僕のことぐらい知っていそうなものだが」
「はぁ、すみません……」

 いまいち要領を得ない。『地下の樹』とはなんのことだろう。青年は怪訝そうな表情でココロを見ていたが、まもなくして落ち着いた声で答えた。

「僕はこの『地下の樹』を管理している、壁画妖精のジーテだ。まあご覧の通り、管理をするどころか、スパム妖精達の管理すらできていないがね」
「ヘキガ妖精のジーテさん……あれ? もしかして壁画妖精さん?」
「なにを言っているんだ、君は。それ以外のなんだと言うんだ」
「で、でも、壁画妖精ってたしかみんないなくなっちゃったはずじゃ……」

 ついこの間の授業で習ったばかりだ。壁画妖精は資料にこそ残っているが現在では滅んでしまったのだ、と。その要因については、ウイルスや大規模なサーバーダウン、妖精界の体系変化の過程における自然淘汰によるものなどと諸説あるようだが、未だに明らかになっていないらしい。
 ココロの疑問に対して、青年は険を含んだ顔で言った。

「なにをバカなことを。少なくなってはいるだろうが、滅んだりするものか。無論、妖精界がこの状態のままなら遠からず滅亡するだろうがな……そのときは壁画妖精だけではない、すべての妖精が滅びるときだ」
「ご、ごめんなさい……ココロ、歴史はぜんぜんわかってなくて……」
「いや、いいさ。ただでさえ少ない種族だ。誰が生き残っているかもわからないしな……。それより、君はどうやってここに来たんだ? 表ではスパム妖精を追い払うことに成功したのか?」
「スパム妖精? ええと、ココロがここに来たのは上からで――ッ」

 爆音がした。耳を押さえてうずくまる。痛い、耳が痛い。じわりと目が潤んでくるのがわかった。

「う、うぅ……」

 うずくまったままジーテのほうを見ると、ジーテも眉をひそめて片耳を押さえていた。ジーテの口元が動く。ココロの後方に向けて喋っているようだ。

「――――、――――――」
「――、――――!」

 耳が慣れるのを待って、ココロは振り向いた。

「あっ」

 思わず身をすくめる。そこにいたのは、先ほど鬼の形相で追いかけてきた変な女の子だった。ここまでココロを追いかけてきたのだ。
 女の子はココロに気づくと強い視線を向け、ココロの目の前に指先を勢いよく突きつけてきた。

「ぜんぶコイツがわるいんですのね!」
「ひうぅッ!?」
「おまえはジーテせんせーをねらってやってきたしかくなのね! しょうじきにはなすのね!」
「あわわわっ……」

 怒鳴りつけながら迫ってくる女の子の勢いに押されて、ココロはへたり込んだままずりずりと後ずさる。しかし、すぐにどんっと背中に衝撃があった。もう逃げられない、と思った。

「かんねんするのね……きょうがおまえのめいにちなのね!」

 女の子はココロの目の前で小さな手をパーに開いた。女の子の手が赤い光を帯びはじめる。なにが起きるのだろうか。ココロは恐怖で思わず目をつぶった。

「メフィのちからをおもいしるの――うなぁー!」
「騒がしい、と何度言えばわかる、メフィーエドル。僕が求めたのは要因の除去ではなく現状発生している問題の解消だ。そして、いま問題を引き起こしているのはすべて君だ」
「ご、ごめんなさいですのね……」

 すっと目の前から圧力が失われたのがわかった。ココロはそろりと片目だけを開いてみる。すると、壁画妖精のジーテが女の子の首根っこをつかまえて持ち上げているのが見えた。危機は去ったのだろうか。

「わかったのならそれでいい。メフィーエドル、椅子を出してくれ」
「うぃー! りょうかいしましたのね!」
「さて――」

 ジーテから解放されたメフィーエドルと呼ばれた女の子が本の山に突っ込んでいく。薄目でそんな様子を見ていたココロに、ジーテが目を合わせてきた。

「迷惑をかけてすまない」
「は、はい……あ、いえ、だいじょうぶです、はい」
「なにぶん、まともな客が訪れるようなところではないのでね。疑心ばかりが育つ。せめてもう少し成長していればよかったのだが」

 ジーテはメフィーエドルのほうを見て、そんなことを呟いていた。


 しばらくして発掘された椅子に座るよう促され、ココロは腰を下ろした。背中に羽がある為に、若干違和感がある。しかし、痛みがあるわけでもないので、少しばかり時間が経つと気にならなくなった。
 ココロはメフィーエドルを下敷きにする前のことをジーテ達に話した。ココロがブログ妖精学校に通っていたこと、『地下の妖精』に本を返しにきたこと、ピアと会って地下に潜り、ドラゴンと会って、小部屋に入って――。

「あんたいったいなにいってるのね」
「うぐっ、そんなこと言われても……」

 ココロが椅子に座っている隣で、メフィーエドルが腕を組んでココロを睨みつけてくる。身体は小さいが、いちいち厳しい子だ。ココロが説明しているうちに何度も辛辣な言葉を投げかけてきていた。

「ここは『ちかのようせい』なんてばしょじゃないのね。てきとうなことばっかりいうんじゃないのね」

 「でも――」、反論しようとして言葉につまる。ココロだっていまの状況がよくわからなかった。ただ、いまここにいる部屋、それでなくても、この部屋の外にある本棚の様子……そういったものは、間違いなくつい先ほど『地下の妖精』で見たものと酷似している。なにより、ココロは『地下の妖精』を出た覚えがない。にも関わらず、ピアがいない、あの大きなドラゴンもいない……いったい、どこにいったのだろう。

「まず、君はここが図書館だと思っている。間違いないね?」

 それまでじっとココロの話を聞いていたジーテが口を開いた。

「はい、『地下の妖精』って図書館で……今日はユユさんが受付をしてたんです」
「図書館があり、そこから下っていったところにこの場所がある……つまり、ここの上には図書館がある、と」
「そうだと思いますけど……違うんですか?」
「先にもうひとつ確認させて欲しい。妖精の泉はいまどうなっている?」
「妖精の泉ですか? ……ええと、どうなっているって、なにがですか?」
「……なるほど、そうか、そういうことか」

 ココロが首を傾げているとジーテは椅子の背もたれに寄りかかり、手を額に当てた。その姿勢のまま、ジーテは話しはじめた。

「考えられることは二つ。君がべつの妖精界から来たか、未来か、過去か……時間を超えたかのどちらかだ。妖精の泉は妖精界と他世界とを繋ぐものだと言われてきたが、まさか本当にそんなことが起こるとは」
「はぇ? べつの妖精界?」

 妖精の泉が人間界と繋がっているという話は聞いたことがあったが、べつの妖精界なんてものが存在するのだろうか。ましてや時間を超えただなんて。

「ジーテせんせー! どうしてこんなうさんくさいやつのいうことしんじるのね! うそばっかりなのね!」

 混乱するココロをよそに、メフィーエドルがそんな言葉でジーテに食ってかかった。ジーテは落ち着いた様子で答える。

「どんな妖精であれ、妖精界で生きている以上、妖精の泉、そして“妖精の樹”から受ける影響は決して無視できない。僕とて例外ではない。無論、君もそうだろう。しかし、彼女はそのことを知らなかった。なぜか? わかるか、メフィーエドル」

 ジーテに問いかけられ、メフィーエドルは言葉に詰まっているようだった。「うー」と小さく唸る。ココロには、二人がなんの話をしているのかさっぱりわからなかった。

「かつて僕たちがそうだったように、影響を受けたことがないからだ。現に、彼女は羽を持ち、空を飛ぶことが可能だ。いまこの妖精界にそんなことができるものはいない。羽を持つものも力を失っている。妖精の泉と妖精の樹が枯れてしまった世界では、妖精が妖精として生きていくことはできない。僕たちはそれを身をもって理解した。それでも彼女がこうしていられるということは、彼女はこの妖精界の住民ではない。つまり、ここではない……いまではない妖精界、べつの妖精の泉と妖精の樹から生命力を得ているということだ」

 よくわからないけれど、いまここの妖精界が大変なことになっているらしい。

「しかし、いったいどうしてこんなことが起きたのか……。君の妖精界では、なにか大きな問題、つまり妖精の泉や妖精の樹になにか問題が起きてはいないのか?」

 ココロはすこし思い返してみたが、最近、そういった話を聞いたことはない。もしそんなことがあったなら、大騒ぎになっているはずだ。それに、そもそも、妖精の樹とはいったいなんのことだろう。

「たぶん、なにもないと思います」
「そうだな……君の羽が消えておらず、しかも飛べるということがなによりの証拠だ」

 ジーテは腕を組み、考え込み始めた。
 ココロは結局どうすればいいのかわからず、途方に暮れる。ピアは無事なのだろうか。『地下の妖精』はどうなっているのだろうか。

「もうようはすんだのね。あんたはとっととかえるのね」

 メフィーエドルがそういってココロを引っ張り立たせる。

「そんなこと言っても……帰り方わかんないもん」
「しったこっちゃないのね。あんたとべるんだからてきとうにとんでかえったらいいのね」

 出口のほうへと追いやられ、ココロは仕方なく扉に手をかけた。とりあえずこの建物から外に出てみればなにかわかるかもしれない。

「じゃあ、ココロはちょっと外に出てきます」

 メフィーエドルが「とっとといくのね」と相も変わらずつんけんした態度で言い放つ。その後を接ぐようにジーテが口を開いた。

「その先の部屋の天井にある隠し通路に、妖精の泉と繋がっている小部屋がある。もしかすると、君が自分の妖精界に帰る手がかりになるものがあるかもしれない。行ってみるといい」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 そういえば、ピアを探していたときにそんな部屋を見たような気がする。やはり、見た目通り妖精の泉と関係がある場所のようだ。

「メフィーエドル、君も彼女について行くんだ」
「うなっ!? ど、どうしてですのね?」
「案内をするんだよ。大した手間ではないだろう」
「う、うう……りょうかいですのね……」

 ココロが部屋を出ると、後ろからメフィーエドルもついてきた。ずいぶん落ち込んでいるようだ。そんなに案内が嫌なんだろうか。ココロは部屋の扉を閉めてから、メフィーエドルに言った。

「えっと、メフィーエドルさん?」
「なんなのね……とっとといくのね……」
「うん、あの、ココロ場所わかるから、いいですよ。案内してもらわなくても」
「あんたがよくてもメフィはだめなのね。ジーテせんせーのいいつけなのね」
「そっか……じゃあ、お願いします」

 なにかとココロを嫌っているように思えるが、それでもジーテから言われたことをしっかり守ろうとするのだからずいぶん律儀な子のようだ。ココロの返事を待たず、メフィーエドルはすたすたと歩いていった。ココロよりも体格が小さいので歩幅もかなりせまい。置いていかれる心配はないだろう。追い越してしまわないように、後ろからゆっくりついていく。
 辺りに人の姿は見えないが、あっちこっちから雑踏のような音が聞こえてくる。本棚で視界が遮られているのでよくわからないが、他にも誰か人がいるのだろうか。

「なんかにぎやかだね。誰かいるの?」
「……いないのね。ここにいるのはジーテせんせーとメフィだけなのね」
「え? でも、さっきここに来るまでにミニマム妖精をたくさんみたけど」

 ブランに懐いているミニマム妖精みたいなものをたくさん見かけた。ミニマム妖精がいるということは近くに主人がいるんじゃないだろうか。

「うっとうしいスパムようせいがうじゃうじゃいるだけなのね。あいつらはうるさいのね」

 スパム妖精……さっき、ジーテもそんなことを言っていた気がする。スパム妖精とはいったいなんのことだろう。ジーテやメフィーエドルはスパム妖精のことを敵視しているようだが。
 しばらく歩いているとメフィーエドルがある本棚の前で足を止めた。

「このうえなのね。いくのね」
「うんっ! よし、いくよー」

 ココロはメフィーエドルを後ろから抱きあげて空に飛び上がった。

「うなっ、な、なにするのね! はなすのね!」
「えっ、なんで?」
「め、メフィにさわるななのね!」
「でも、こうしないと上にいけないんじゃ……」
「あう、あうう……」

 抱えているという意識をココロに感じさせないほど、メフィーエドルは軽かった。すいすいと本棚の傍らを昇っていく。ひゅっと視界が開け、天井がすぐそこに見えた。一箇所、四角い穴が空いている。あれが通路に繋がっている場所だろう。ココロは羽に力を込める。
 しかし、その瞬間、天井の穴からなにかが勢いよく飛びだしてきた。

「うわわっ!」

 とっさに横へ身体が動く。羽のおかげで反応することができたようだ。なんとか回避できたことに気づき、遅れて背中に嫌な汗が流れる。

「あんたまだいたのね――!」

 ココロが胸をなで下ろしているとメフィーエドルが低い声で唸った。

「ウフフ、ここはわたくしたちの別荘なんですのよ。退去するのは貴女たちのほうではなくて?」

 ココロたちの前方に、かなりきわどい水着のような衣装を着ている女の子がいた。とげとげしい羽をぱたつかせて、滑稽なものでも見るように嘲笑いながらこちらを見ている。

「あら、見慣れないものがいますね」

 女の子が興味深そうに、しかしやはり悪意をこぼさずにココロを見て、笑みをいっそう深めた。



  つづく。
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