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fairy's track 第九話

 前回から8ヶ月振りとか。どんだけ時間が停まってるんだ。ここは時のはざまですか。
 どうでもいいんですけど、蔵書を地下にしまったら湿気でダメになりそう。

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話
 第五話
 第六話
 第七話
 第八話

 第九話は続きを読むから!


/fairy's track 第九話/





「そんな噂が……。それは怖かったでしょう」

 ココロがレッヴェスから聞いた図書館の噂を話すと、ピアは困ったように笑う。
 ココロはピアのそんな仕草に安心して、すっかり落ち着きを取りもどした。

「まだ返す本はあるの? じゃあ、いっしょに行きましょう」

 言葉の意味も理解しないうちに身体を強張らせたままコクコクと頷く。ピアがそこにいるということを改めて実感し、今度は恐怖の代わりに緊張がやってきた。

「あの、ありがとうございます」
「ううん、いいのよ。ココロちゃんがどういう本を読んでいるのかも気になりますしね」
「い、いえ、そんな……、ココロが読むのはマンガばかりで……」

 ココロはすっかり舞い上がってしまって、マンガという言葉で頭がいっぱいになった。
 ココロは好きなマンガについて思うままに話し出す。ピアが楽しそうに相づちを打つことで、ココロの足取りは羽が生えたように軽やかになっていた。


 二人が目的の本棚につくまでそう長くはかからなかった。本棚にたどり着くまでの間、誰ともすれ違うことがなかった。もともと『地下の妖精』地下二階には人が集まりにくい。寒いことに加え、書棚の配置上、テーブルと椅子の数が上の階に較べて少ない。地下二階に来る人のほとんどは、本を取りに来るか、本を棚に直しに来るかのどちらかなのだ。
 ココロは手元に残っていた最後の一冊を所定の位置に直す。これで返却はおしまいだ。

「ピアさんはこれからどうするんですか?」
「今日はもう帰ろうかと思います。もう少し調べものをしたかったんですけど、最近は物騒ですからね」
「え? 物騒?」
「ええ。水辺や森の衰退が進んでるみたいで……ココロちゃんも気をつけてね」
「ええと……」

 ネフテーの森のことを思い出す。枯れ木を突き飛ばしたり、枯れ木に捕まったりした。一歩間違えれば大ケガをしていたかもしれない。ココロだけじゃなく、ブランにしても、同じクラスのみんなにしてもそうだ。しかし、ココロにはあの出来事がそれほど危険なことであるようには思えなかった。どうしてだろうか。

「ここは冷えますね。早く上がりましょう」

 足を止めて考え込んでいたココロにピアが促す。ココロは我に返り、相づちを打った。二人はどちらからともなく歩き出し、階段へと向かった。

 小さな音の積み重ねがある。眠りにつく一瞬間を駆け抜けるささやかな雑音。まったくの無音なんていうものは本当に珍しく、ふいに真夜中に目を覚ましたとき、ごくまれに感じることができる違和感だ。そう、無音とは違和感そのものだ。
 ココロに違和感が降りかかったのは、ある本棚を横切ろうとしたときだった。長い本棚だった。
 ココロがついてきていないことに気づいたのだろう、ピアが足を止めて振り返り、どうしたの、とココロに声をかける。ピアの声はココロにまで届いたが、まもなく反響しないままにピアの声は消えた。ココロは本棚を見た。本棚に吸い込まれたのだ、ピアの声が。

「なにかあるの?」

 ピアがココロの視線を追って本棚に意識を向けた。

「なんでしょう……なんかへんな感じがして」

 ココロが本棚から目を離さずに言う。ピアは本棚を見て首をかしげる。そして、ふっと上を見て、ピアは高く飛んだ。降下時、ピアはブランのそれとは違う柔らかな青い羽を一度だけ小さく煽り、まったく音を立てずゆっくりと着地した。

「……そうね、変です」
「え?」
「この本棚、留め具がありません」

 『地下の妖精』に限らず、図書館では飛行禁止となっている。どんな高い場所の本を取るときでも、飛行して取りにいってはいけない。高所の本を抜くときに余計な力を本棚に与えてしまうと本棚が倒れてしまう危険があるからだ。
 しかし、禁止になってはいるもののハシゴを伝う労を嫌って飛行するものが後を絶たない。そこで図書館が一定の高さをもった本棚には留め金をつけるようにしたのだ。壁際の本棚も例外ではない。
 『地下の妖精』には背の高い本棚が多い。とくに地下二階にあるものは、そのほとんどがココロの背の三倍ほどはある。留め金がついていない本棚があるということは考えにくい。

「つけ忘れたのかな?」

 ココロは本棚を見上げる。よく見ると、少し上のほうは本が少ない。貸し出し中なのだろうか。

「どうでしょうね。最近、本の整理があったようですから、それに合わせて取り外したのかも知れませんし……」
「もお、あぶないなぁ。ユユさんに言っておこうっと」

 踵を返して、ココロはその場を離れようとした。
 そのとき、風が吹いた。

「――ん?」

 風がココロの髪をさらう。
 髪がもちあがる。
 振り返る。本が数冊、ばたんと本棚から落ちるのを見た。そして、ココロの目の前で本棚が傾いた。
 本棚が倒れたときの音はココロの耳に入らなかった。
 ココロの世界から音は消え去っていたのだ。気づくと、ココロは倒れた本棚を上から見下ろしていた。足がふわふわする。足下をみる。あるはずの場所に床がない。

「は、はれ……?」
「だいじょうぶ?」

 背後から声がかかる。ココロはピアに抱えられていた。中空に浮いているのだ。

「だいじょうぶ、ですけど……」

 よくわからない。なにが起きたのだろう。

「よかった。間に合わないかと思いました」

 床に降ろされる。目の前には散らばった本と大きな本棚。
 ああ――倒れてきたのか。
 それを自覚すると背筋がぞわわと粟だった。ピアが助けてくれたのだ。

「天井が高くて助かりました。頭を打たないですみましたからね」

 ピアが落ち着いた様子で言った。ココロも胸をなで下ろす。

「ピアさん……ありがとうございます」
「どういたしまして。さあ、はやく戻って苦情でも言いにいきましょうか。仕事中にぐっすりお休みになられている本棚がありますよって」

 ピアが促すようにココロの手を引いた。

「……あら?」

 ピアが目を細める。ピアの視線を追って、ココロは振り返った。
 本棚が倒れている後ろ。本棚があったところに大きな空洞があった。床からいくらか離れている。本棚が立っていたときの、本棚の真ん中辺りだ。空洞は暗く、その先になにがあるのかは見えない。奥があるように見える。
 ココロは不安を煽られる。繋いでいたピアの手をぐっと握り、ピアのほうへ視線を戻した。

「ココロちゃん、悪いけど、先に上がっててもらえないかしら」
「え?」
「ちょっと用事ができちゃったみたいなの」

 ピアはそう言うと、ココロの手を離し、空洞へと向かっていく。ココロはぼう然とその後ろ姿を見送る。
 空洞は人一人が優に入れるほどの大きさがあったが、ピアがそこに入るには羽を畳んでおかなくてはならないようだった。床から空洞に手をかけ、ピアが空洞の中に身をすべり込ませる。
 ココロは慌てて駆け寄った。

「ピ、ピアさんっ! あぶないですよ! オバケとかいるかも!」

 もうピアの姿は見えない。空洞から返ってきたのは声だけだった。

「だいじょうぶ、すぐ戻ってくるわ。ココロちゃんは先に上に行ってて」
「そ、そんなぁ……」

 空洞を前に立ち尽くす。ぐるりと周りを見渡す。当然のことだが、助けになりそうなものは何一つない。誰の姿もない。
 本棚が倒れてしまったせいで妙にがらんとした空間が出来上がってしまっている。
 上に行けば誰かがいるだろう。ユユは絶対いる。受付に行って事情を話せばピアのこともなんとかしてくれるに違いない。
 しかし――ココロは意を決し、空洞の入り口に手をかけてよじ登った。顔だけでのぞき込んでみると、そこには真っ暗な空間がある。こんなところを一人で行かなくてはならない。この先にピアがいるのだ。
 すぐに追いかければ良かった、とココロは後悔した。

 狭く、暗い。もうどれぐらい歩いたのかわからない。道が広くなる様子はなく、灯りが見えてくることもない。うっすらと石の床があるのがわかるだけで、障害物もなにもない。気がヘンになりそうな道のりだ。この先になにがあるというのか。
 いっそ声をあげてピアを呼ぼうかと思ったが、返事がないことが怖くて声を出せない。でも、やっぱり大声で呼んでみたらどうだろう。
 ココロがそんな喉元のつっかえとの戦いに決着をつけようとしていたところで、やっとぼんやりと明かりが見えた。薄い緑の光が少し先の側面から漏れでている。
 足が自然と速まった。やっとこの暗闇から解放される。
 緑の光はゆるやかに点滅していた。ココロが光の前にやってくる。扉があった。アーチ型の扉をした光が依然、音もなくココロを招く。

 取っ手はない。ココロは扉を押し込む。
 キィィと扉が鳴る。古めかしい音だった。まるで、扉がこうやって開かれることを想像だにしてなかったとでもいうように。

 扉の先は部屋ではなかった。そこにあるのは景色だった。ココロは一瞬、外に出てしまったのかと錯覚した。
 ココロよりも少し背が高いぐらいの石柱がぽつんぽつんといくつか立っている。その中心にはいまにも土や草の匂いを感じさせそうな小さな泉。透きとおった薄緑色がゆらゆらと揺れている。
 ピチャン、ピチャン。
 泉に小さな波紋が広がる。上を見ると、綺麗に平坦になっていない歪な形をした天井があった。ごつごつとしている石の天井から、水滴がこぼれ落ちている。
 ココロは周囲を見渡す。天井があり、よく見れば壁もある。部屋らしき形だった。ただ、部屋というには人の手が入った様子がまったく見えてこない場所ではあった。

「でも、これって……」

 すぐに思い当たる。似たような場所を知っている。
 美しく、透きとおった緑色の泉。それを囲む自然そのものを象徴する建築物。規模はとても小さいが、これは妖精の泉そのものだ。
 妖精の泉から繋がっているのだろうか。この図書館は地下にあるのだし、水がここまで流れ込んできてもおかしくはない。

「あれ? ピアさんは?」

 今はゆっくり考え事をしている場合ではない。ここにはピアを追いかけてきたのだ。
 どうやらこの空間にはいないようだ。隠れられるような広さはなかった。この部屋よりも先に行ってしまったのだろう。
 ココロは肩を落とし、ふたたびあの暗い通路に戻った。通路をわずかに彩っていた緑色の光は失われていた。

 予想外に穏やかな景色を見られた為か、ココロはずいぶんと落ち着いた心持ちで先に進むことができた。それでも、明かりらしきものを見つけたときにはやはり安堵した。
 明かりは先ほどの扉から漏れていたものとは違い、しっかりと道を照らすものだった。橙の光は下から来ている。
 大きな穴があった。道はここで行き止まりらしい。穴の先に通路は続いていない。途中の部屋にいなかった以上、ピアはこの下にいるのだろう。
 屈んで、下をのぞき込む。真下には本棚があった。距離はそう遠くない。慎重に降りれば大丈夫そうだ。
 通路の縁に手をかけ、ココロは身体を降ろす。足下を見ながらしっかり本棚の上に着地した。
 本棚の上から一望する。本棚がいくつも並んでいた。地下二階よりも広い。この場所は一体何なんだろう。
 ともあれ、ここまで来たらあとは問題ない。ピアを見つけるだけだ。

「ピアさーーーーん!」

 少し待ってみるが、返事はない。聞こえなかったのかもしれない。ココロはもう一度大声で呼びかけようと息を吸い込んだ。
 すると、ココロの視界に翳りがさした。後ろから誰か来たらしい。ピアだろう。

「なんだ、いるんならいるって返事を……」

 翼はあった。空を飛んでいる。ただ、その規模があまりに大きかった。
 巨大な牙がココロの眼前で動く。ココロの顔ほどもありそうな大きな目がじっとココロを見ている。
 ドラゴンがそこにいた。


    つづく
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やっぱり、かささぎさんはうまいなあ。

描写が自然で作風と調和していて綺麗ですもの。
悔しいけど、このみを奪うのは難しそうです。
  • 2009-06-30│23:31 |
  • 七月大介 URL│
  • [edit]
No title
Q:このみには彼氏がいるの!?
A:何言ってるんだ。いませんよ。みんなのアイドルです。

ってロロナの絵師の人が言ってました。(言ってません)
  • 2009-07-01│01:53 |
  • かささぎ URL│
  • [edit]

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