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fairy's track――第八話

 ちょっと中途半端なところで止めてしまった。いや、長くなりそうだったので。第八話前編、ってところか。

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話
 第五話
 第六話
 第七話

 第八話は more から!


   ◇ ◇ ◇



 図書館『地下の妖精』に漫画を探して訪れた少年は、目当てのタイトルを探しながら書棚を巡っていた。時間がもう遅いからか、いまごろはみんな家でくつろいでいるのだろう、図書館にいる人はまばらだった。
 少年は目当ての本が以前あった場所に無いことに気づいた。ちょうど少年が『地下の妖精』を以前訪れてから今回やってくるまでの間に、大規模な整理が行われていたのだ。少年はそれまでいた書棚から別の書棚に移動しようと、次行く場所にあたりをつけようとした。
 そのときだった。少年の耳に、図書館らしからぬ音が飛び込んできた。最初、それがなんなのかよくわからなかった。不思議に思って、少年は足を止めた。
 フォオオン……、フォオオン……、と風がどこかで抜けているような音が聞こえた。窓でも開いているのだろうかと少年は首をかしげる。しかし、よく聞くと、音は上からではなく、下から聞こえてくるようだった。ここで、また少年は疑問を抱かずにはいられなかった。
 『地下の妖精』は、地下二階までしかない。どこかに風穴でも開いているのだろうか。少年は音を探って動いた。
 少年は音の在り処を間もなく見つけた。一つの書棚だった。書棚の向こうから音が聞こえてくる。
 ふっと、好奇心が舞い降りた。
 少年は書棚の下段から本を抜いていく。すると、ある本の後ろに空洞を見つけた。かなり広い。目を凝らしてよく見てみると、それが階段だということに少年は気づく。
 これはすごい発見だぞ……と少年は胸を高鳴らせた。今まで何年もこの図書館に通ってきた少年だが、隠された地下への階段などという話は聞いたことが無い。
 少年は荷物という荷物を放り出し、自分が通る為のスペースを空ける為に本を抜き出していった。
 間もなく作業を終えて、少年はかがんで、書棚の向こう側へと身を潜り込ませる。一度入ってしまうと、外から見た通りかなりの広さだった。階段は暗かったが、ぼんやりと青白く光る花――青星花がところどころに置かれてあるおかげで、少年は足元を見失わずにすんだ。
 長い階段が続いた。あるいは、それほど長くはなかったのかもしれないが、その少年が一人で歩くには長い階段だった。
 やがて少年の中で好奇心が恐怖心に屈しようとしたとき、階段の終わりが見えた。はるか先に強い光が見える。階段もそこで途切れており、わずかに床が見えた。目の覚めるような赤い床だった。
 少年は思わず足を早めた。この先になにかあるんだという興奮が少年の足を急かした。
 床に足をつける。部屋を視界全体で捉える。上の階とは比べ物にならないほどの広さだと直感した。その瞬間、少年の視界に影がよぎった。なんだろう――と少年は影を追った。
 すると、
「ぎぃぃいいっややあああああぁああ!!!!!!!!!」




「なに!? なにがあったの!?」

 ココロは頭を抱えながらクラスメートの女の子――レッヴェスに訊ねた。

「ソレがわかんないんだよねー。目撃情報はそれでおしまいだから」
「わわっ、そ、それって……」

 想像したくないことを想像してしまいながら、ココロは言わずにはいられなかった。レッヴェスは頷いた。

「ガブッ!」
「きゃーーーー!」
「ペロッ!」
「うきゃーーーー!」

 隣でブランが「さわがしいわねぇ……」とぼやいたが、二人の耳には届いていなかった。
 ココロの声がわななく。

「うぅぅ、ううう……もう、図書館にいけないよ……」

 『地下の妖精』といえば、妖精界で唯一漫画を取り扱っている図書館で、人間界の漫画も置いてある。ココロや漫画フリークにとってはオアシスとも言うべき場所だった。
 ブランは、机に突っ伏してうめくココロに言った。

「もう漫画はやめときなさいっていう図書館からの配慮よ。おとなしく諦めることね」
「うぅー、でもまだ『ヤンデル妖精』の『あの子がたぶらかしたんですね…編』読んでないし……」

 レッヴェスが「うんうん、あれを読まずに漫画は止められないよねー」と相づちを打つ。ブランはそのどちらも無視して言った。

「その噂、結局どこから広まったの?」

 レッヴェスは腕を組んでうなった。

「さっすがブランちゃん! いいところに気づいたね。でも、それがボクにもわからないんだよ。この話の流れだと、男の子は行方不明ってことになっちゃうんだろうけど」
「かといって作り話にしては出来すぎね。地下のさらに地下、ねえ……」
「それにセキュリティ隊の人が何人かで調査したなんていう話もあるんだよ。『地下の妖精』の臨時休館もあったし、近くでそれらしい人が出入りするところを見たっていう話もあるんだ。でも、その後、また普通に開館してるからね。なにも見つからなかったのかな?」
「それか、臨時休館がただたんに本の欠損調査の為だったりね」
「ボクはもちろんなにも見つけられなかった説を押すよ! そのほうが夢があるからね!」
「それは、ご自由に、としか言いようがないわ」

 ブランが肩を竦めて苦笑する。すると、ココロがのっそりと顔を上げて二人をみた。

「そういえば、今日、返す漫画があるんだけど……」

 レッヴェスは唇の端をあげてニヤリと笑う。ブランは首を振る。

「……ついてきてくれない?」

 最後まで、ココロの望んだ答えは得られなかった。




 放課後。せめて明るいうちに行けば人が多いだろうと考えたココロはいっさい寄り道をせずに『地下の妖精』へと向かった。
 ココロの思惑通り、図書館にはそれなりに人がいた。漫画が好きな人はかなり多いのだ。
 ココロはまっすぐ受付へと向かう。今日受付をやっている女性は、よく見知った顔だった。色は違えどブランと似た形の羽をもつ司書――ユユだ

「あら……漫画の虫さんがやってきたわ」
「えー? ココロは虫じゃないですよぉっ」
「いいのよ、私だって同じだわ。今日は返却に来たの?」

 ココロはぶーぶーと文句を言いつつも、数冊の漫画を差し出す。ユユが本をデータと照合して、該当の書棚を割り出す。やがていくつかの紙をプリントアウトして、ココロがもってきた漫画に挟んで渡してきた。
 本を借りた人が本を直す。他の図書館『サンドレイク』や『ゲック』とは違って、それが『地下の妖精』でのルールだった。

「じゃあ、ぜんぶ地下二階にあるみたいだから。ちゃんと直してきてね」
「え、ええっ! 二階!? ココロがこれ借りたとき一階にあったのに!」
「ごめんなさいね、ついこの間入れ替えがあったばっかりなのよ。最近、本の保管場所が変わったから、図書館のほうでも調整する必要が出てきて……ああ、その漫画はココロの手が届かないような場所じゃないから安心して」
「……いいですけど、いいですけどぉ……」

 肩を落として階段へと向かう。地下一階のフロアはわりと賑わっているようで、ざっと流してみただけでも数えきれないほどの人がいた。足音に限らず、そこかしこからささやき声も聞こえてくる。
 ココロはそんな様子を横目に、地下二階に向かう階段へと足を踏み出した。途中、昇ってくる人とすれ違う。
 レッヴェスの話が頭から離れない。なにか出たらどうしよう――嫌な予感を振り払えないまま、地下二階へと足を踏み入れた。
 地下一階と比べて地下二階は多少寒い。冷気を逃さないからだ、とココロは以前、ブランから教えてもらっていた。風が吹いてきたわけでもないのに、ココロは地下二階に漂う冷たい空気に身を震わせて縮こまる。一度戻ってからユユさんについてきてもらおうか――と考えたが、それは悪い気がしてためらわれた。ユユは仕事中なのだ。
 ココロは早く終わらせてしまおう、と決意する。書棚の案内図の前に立ち、ユユから受け取った紙と案内図を見比べた。一冊を除いて、あとはほとんど似たような場所にあるようだ。これならすぐに終わるだろう。心持ち落ち着きを取り戻し、ココロは早足で近いほうの書棚へと向かった。
 地下二階にある書棚は地下一階のそれより多少背が低いとはいえ、ココロの二倍ほどある。ココロが手を伸ばしたとしても一番上までは届かないぐらいだった。そのため、地下二階は非常に見通しが悪い。唯一頼りになるのは音や声だが、そこはやはり図書館なのでひっそりと静まりかえっている。自分以外誰もいないかもしれないと思わせるには十分なぐらいだ。
 ココロはなんとか指定の場所にたどり着き、さっそく本を直しはじめた。
 逸る気持ちのままに、ココロは機敏に動いていた。
 本がやっと片手で持てるようになったときだった。ココロは下方の棚に本を直そうと手を伸ばし――重い風のような音を聞いた。
 始めは何の音かわからなかった。重い本がどこかで傾いたのかと思ったが、それにしては長い音だったような気がした。ココロはちょんと首を傾げる。
 そして次の瞬間、ココロの背中が怖気だった。
 レヴィちゃんの話だ――レッヴェスが学校で語った少年の話がココロの記憶にあざやかに蘇る。風の抜けるような音……書棚の下段……ココロはじりじりと目の前の書棚から離れていく。背が後ろの書棚にあたって、それ以上動けなくなっていたが、ココロはしばらくそのことに気づかなかった。

「き、き、気のせい、だよね、ね?」

 耳を澄ましてみる。風の音なんかぜんぜん聞こえてこない。ほらやっぱり!
 ココロは浅くなった呼吸を抑える為にゆっくりと呼吸した。イナイいないオバケなんてイナイいない。呪文で胸中を押さえつける。
 そしてしばらく、やっと落ち着きを取り戻したココロは、気合をいれてふたたび作業に取り掛かることにした。
 順調に片付けは進み、残るは離れた場所にある書棚へと直す一冊だけとなった。これさえ片づければあとは地下一階に戻って、新しい漫画を借りて家に帰ることが出来る。そう思うと先ほどのような嫌なものとは違う胸の高鳴りを感じる。足取りも軽く、ココロは書棚を曲がって通路に――その瞬間、ココロの前に影がぬっと現れた!

「うわぁぁあああーーッ!」

 ずさーと後ろに飛びずさる。頭を抱えて目をつぶる。
 目をつぶってしまったものだから、なにが起きているかわからない。しかし、目を開けてしまうのも怖い。ココロはどうしようもできず、そのままうずくまっていた。
 すると、足音が近づいてくる。何かが近づいてくる。ココロはますます身を固くした。
 とうとう、なにかがココロの目の前で止まった。ああ、もうダメだ……とココロは諦めかけた。
 すぅと小さく息を吸い込む音が聞こえる。一口で食べる気なんだ! とココロは恐怖した。

「ココロちゃん?」

 しかし、ココロの耳を撫でていったのはやわらかく優しい声だった。聞きなれない声――名前を呼ばれたことに安心したココロは、目を開けて、顔を上げた。

「驚かせてしまいましたね。ごめんなさい、急いでいたものですから」

 胸ほどにまでかかっている長く美しい金髪――夢から抜き出したしたような肌色――知性を印象づける碧眼。学校の先輩である、ピアだった。


  つづく
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