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fairy's track――第七話

 まだ学校に入学してから二日しか経っていない不思議。
 本気でどうしよう。

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話
 第五話
 第六話

 第七話は more から。

     ◇ ◇ ◇


 ココロとブランが職員室から出て行くのを見送ってから、フィールは目を閉じて、握りこぶしでこんこんこんと自分の頭を三度軽く小突いた。それはフィールが考え事をするときの癖だった。
 フィールとはデータベース管理室時代からの仲であるエベリスは、黙ってフィールの答えを待つ。
 エベリスは自分なりに昨日のことを考察していたが、これといった答えは見つけることができずにいた。彼にとって畑違いの分野である“生態系”に関することだということもあったし、なにより、ココロに起きた異変はあまりに唐突な出来事だったので、観察段階にまで至らなかったのだ。ただ目撃することしかできなかった、そのことが悔やまれた。
 ココロがフィールに話してきかせたことは、エベリスが話したことよりも情報が少なかったように思えた。
 そもそも、ココロは自分になにが起きたのかほとんどわかっていなかった。結局ココロが話したのは、目が眩んだ、ヘンな夢をみた、木を見て使命感を覚えた――などといったもので、状況の推移を説明する話はほとんどなかった。そしてブランは最初から話す気が何も無かったようで、着いてくるだけ着いてきて、ココロに話したいように話させただけだった。口を挟むことはなかったし、話を補足することもなかった。彼女自身が協力する気がないことは教室でのやり取りでうかがえたからだろう、フィールもブランに意見を強く求めるようなことはしなかった。
 しかし、あの感覚はいったいなんだったのか。エベリスはココロら出てきた光が周囲に拡散したときの感覚を思い出す。まるで水に投げ込まれたときのような圧迫感――あの光の奔流は水が押し寄せてくるようだった。それでいて、身体が押し流されることはなかったし、身体がずぶ濡れになることもなかった。それでも、確かに水に触れたようが気がしたのだ。実に不可解な感触だった。
 エベリスは首を振る。なにも起きていないなら、ただの勘違いの可能性もある。目の前の出来事を理解できないという意識が理解の範疇の外にある現象を錯覚させたのだろう。
 そう結論づけて、エベリスは飲み物を用意するために席を離れようとした。するとフィールが声をかけてきた。

「シールに依頼。地域別枯れ木化の統計と、最近――101年ぐらい遡ったあたり――のドラゴンの移動記録。妖精の泉を水源にしている林道の、妖精の泉からの距離をまとめたもの。
 あと念の為、病気の線も当たったほうがいいわね。どうしようか……そうね、今からトトシェス先生に聞いてきて。軽くでいいわ、ココロちゃんの身に起きたような病気があるのかどうかだけ聞くのよ。年齢や状況なんかの細かいことは話さないでいいから。光って倒れる、だけで。過去に似たような症例があるのかどうか、もしくはそういった症状が前触れなしに日常生活で起こり得るのかどうか。それを聞いてから、その足で直接シールに資料作成依頼をしてきなさい。資料は早急に用意するよう言っといて。両日中ね」

 エベリスは席を立って飲み物を用意した。フィールにソーダ水、そしてエベリスは自分用に紅茶を用意した。

「どの時代にも……ささいな出来事を吉兆や凶兆に仕立てあげようとする人物は絶えないものね。でも、まさか私がそんなことをする羽目に陥るなんて、思いもよらなかったわ」

 台詞のわりに、深刻さを思わせる口ぶりとは程遠く、フィールは好奇心を抑えられないでいるようだった。
 また悪い癖が出たな、とエベレスは気が滅入る思いだった。フィールは管理室委員として優秀ではあったが、データよりもデータを構成するものに目を向けたがった。その為に、データベース管理室から虹立学校に異動させられたのだ。つまり、規律を乱す可能性が高い、として。
 それでも優秀であることに変わりはないので、フィールは未だデータベース管理室と関わりをもっている。そして、データを提供することの見返りとして、調査に必要なデータを引き出す権限を与えられていた。ただでさえ好奇心の強いフィールにこんなものを与えてはならなかったのだ。もっとも、権限がなくてもどうにかしてやろうが考えるのがフィールなのかもしれないが。
 エベレスは自分をフィールの目付け役としてあてがった学園長に苦言の一つでも言いたい気分になった。
 紅茶を飲み干して、エベレスは了解の意志も告げないままに職員室を後にした。





 クラブ活動の勧誘が始まってから、ココロはブランといっしょに賑やかな校舎を練り歩いていた。
 ココロがぜんぶ見よう、とブランを誘ったのだ。

「わたしはクラブに入る気はぜんぜんないんだけど」
「そう言わずについて来てよー。スーちゃんがいないと楽しくないよ」
「二人で行ったからといって楽しくなるとは思えないけど」
「ちっがうよ。スーちゃんといっしょだったら楽しいの!」
「……あ、えっ、……ま、まあ、そこまで言うなら、ついて行ってあげても……いいけど」
「よしッ! じゃーれっつごー!」
「はあ……まったく……」




 ――ココロたちが始めに向かったのは屋上だった。
学校の屋上では『高層すべり台研究クラブ』がいた。

「すべり台は遊具じゃない! 芸術なのよ!」と高層すべり台研究クラブ長は語った。
「ただ上から下へ流すだけなら竹筒でも出来ます。水だって放っておけば流れるでしょう。しかし、こうしてすべり台と肩を隣り合わせるのは水でも素麺でもありません、他ならぬわたくしたちなのです!
 妖精物理学の父――レイリーオは言いました!
『それでもすべり台は曲線が命である』と!」

 ココロやその他大勢の新入生が「おお!」と歓声をあげる。
 ブランはちいさくつぶやいた。

「……妖精物理学っていったいなによ……」

 高層すべり台研究クラブ長は、他の会員がホワイトボードに記入を始める。

「わたくしたちというパートナーを待っているすべり台ではありますが、なら、わたくしたちはなにも考えずにすべればいいのか、というとこれは違います。わたくしたちに求められるものは、すべり台の心を理解しようという姿勢です! こちらのホワイトボードに書かれたすべり台を見てください。これが今、この屋上から地上へと架けられたすべり台の縮図ですが、まず、最初はゆるやかな直線ですね……ここは『獲物を狙って地に伏す猫の気持ち』です。おだやかに、けれど確実に! 虎視眈々と時を待つの! そして第一カーブ……『撃てぇぇええ!』コーナーだからこその加速! そして飛び跳ねるような『トルネード!』『十字を切って明日を捨てろ!』『私は宇宙だ!』『ちょっと三途の川の様子を見てくる』『地上にしばられた神など――!』『重力は死んだ!私は自由だ!』『すべるぅぅうううう!すべってしまううぅぅうう!』『やっぱ地面が最高だわ』だ! 総員配置につけ! 甘ったれな新入りのガキども! すべり台のなんたるかをその身に刻みつけろ!」

「「「サー、イエッサー!!」」」

 ココロや新入生たちが敬礼する隣で、ブランが呆気にとられていた。

「クラブ長の出身が知りたくなるようなクラブね」

 そして新入生はすべり台へと誘導――あるいはすべり台から落とされることになって。長さ三十メートルはあろうかというすべり台から一人、また一人と落ちていく。

「名前は!?」

 クラブの会員が、これからすべり台へと向かっていこうとする新入生にそうやって声をかけていた。

「は! ココロであります!」
「よし! 貴様の名前と思い出は私があずかる! 残った魂をすべてぶつけてやれ!」
「了解であります!」

 ココロがすべり台に突入していったのを、ブランは上からココロの行く先を見ていた。楽しいのか怖いのか、ところどころでココロの悲鳴がなっていた。




 ――次に二人が訪れたのは、特殊加工を為された離れだった。校舎とは別に建てられてあるものだった。
 遠目ですらわかる、見るからに頑健な作りをしていて、ちょっとやそっとのトラブルで崩れるような建物でないように見えた。デザインは無骨な白い箱のようだが、その壁や角にはところどころ金属で補強が為されており、まるでミニチュアの要塞のようだった。

「すごいね~。どうやって建てたんだろう」

 ココロがほけーと建物を見ながら言った。ブランは不審に建物を見やる。

「すごいことはすごいんだろうけど……どうしてこんな建物が必要なのかしら」
「大事なものがおいてあるんじゃないの? とにかく入ってみよ!」


 『新入生歓迎! byファンシー料理部』という立て看板の前には、鳥のような羽をもっている気の弱そうな少女が椅子に座って受付をやっていた。その隣には優しげな顔立ちをした青年が立っている。
 入口に近づいてきたココロとブランを見つけて、青年が声をかけた。
「おおっと、そこのお二人さん、入るの? 今ならまだ間に合うよ。まだ調理には入ってないからだろうからね」
「はいっ。ココロとスーちゃんで二人です!」
「……その前に、一ついいかしら」

 逸り足で先に進もうとするココロを押さえつけて、ブランは青年を見た。

「ファンシー料理、ってなにを料理するの?」

 そのとき、椅子に座っていた少女がビクッ! と身を強張らせたのを、ブランは視界の端でとらえた。青年は平然と答える。

「それは見てからのお楽しみかな。料理というものはそもそも調理を楽しむものだからね」
「そうですよね! 料理は楽しいよ!」

 ココロが入れる合いの手に、ブランはとてつもない不安を抱いた。ココロの料理を想像するということは、それはもう恐ろしいことだった。
 ブランは二人を置いて、椅子に座ったままの少女に視線を向ける。少女の目線はあさっての方向に投げ出されていた。

「そこのあなたは? なにか言うことはない?」

 「うええッ!?」と悲鳴のような声をあげて、少女は飛び上がった。ブランと一瞬だけを目を合わせるも、すぐに視線を逃がすと、少女は言った。

「と、ときにはッ! ファンシーも! 良いのでは! なかろうかと!」

 その直後、建物から途方もない音が響いた。地面は陥没しそうな勢いで揺れた。
 しばらく、誰も声を出せないでいた。
 すぐに建物の中から怒号と悲鳴が響き渡りはじめた。押しつ押されつで生徒たちが建物から飛び出してくる。建物から離れていく姿を、ココロたち四人は見送った。
 ついで、建物の中からドラゴンが顔を出してきた。小さめのサイズではあるが、それでも全長十メートルはありそうだった。
 青年が言った。

「活きがいいだろう? 料理ってのは戦いでもあるんだ」

 うんうんとわかったような顔で頷くココロを引きずって、ブランはファンシー料理部を後にした。




 ――そして最後、ココロたちはプールのそばに立っていた。
 プールは25mのもので簡易な大会会場として扱われ、水泳部の面々がレースを行っていた。ちょうど二人がプールの近くを通りかかったとき、レースがまた始まった。
 ココロとブランはレースの行方を見守った。プールに設置された6コースがそれぞれの走者によって波立たされていた。勝負は男女混合の50m自由形であるようだった。
 往路ではほぼ並んでいたので、そのまま勝負は接戦になるだろうと誰もが想像した。しかし、ターンを返してから、一人の女生徒が抜きん出た。女生徒の動きに気づいた観客はほとんどいなかった。その時点では、少しターンが早かっただけだろう、と後から思えるほどのリードでしかなかった。
 レースが終わったとき、女生徒は2着の部員と10m以上の差をつけていた。
 ゴールに手を着いて顔を上げた女生徒を前に、観客は言葉を失って、一瞬――拍手と歓声を浴びせた。
 ココロたちも、その例外ではなかった。

「すっごーーーーーーーい! なにあれぇッ!?」
「大人と子供ぐらいの差があったわね。後ろの人も遅いわけじゃないでしょうに」

 ブランは言いながら、一位になった女生徒へなんとはなしに視線を向けた。すると、見覚えのある姿だった。

「あら、ピアさんじゃない」
「え? どうかした?」
「昨日会ったでしょ。始業式に挨拶していた人よ」
「う……? あ、ああッ、ホントだ!」

 ピアは長い髪をまとめていた。遠目だったのでココロにはその顔がはっきりとは見えなかったが、言われて見ると間違いようがなくピアだとしか思えなかった。

「スポーツもできるって聞いていたけど、まさかあれほどとはね」

 ブランが感心の音をこめて言う。
 ココロはプールのピアをぼんやりと眺めて、ふっと思い当たったことを口にした。

「あれ? そういえば、スーちゃんって泳げなかったっけ」
「うるさいわね。なにが悪いのよっ」
「あわわわあわわわわわっゆれるゆれるぅぅぅっ! やめてぇええええ!」
「だれだって苦手なことのひとつやふたつあるものでしょ」
「もうッ! だからっていちいちココロにあたらないでよ!」
「ちょっと手が言うことを聞かなかっただけよ。わたしが命令したわけじゃないわ」
「またヘンなこと言ってごまかそうとする!」
「元はといえば、あんたが変なこと言いだすからでしょ」
「ココロは本当のこといっただけだもーん」

 ココロたちはプールに寄ろうとしている人垣を抜けて、学校を出て行った。今日はクラブの見学を終えたものから帰っていい、ということになっているのだった。
 ココロは途中までブランといっしょに帰り道を歩いた。学校から舗装されている道は、遠くまで花に囲まれている。通学路からそう外れたところではないココロの家までなら花があふれている。ココロは、この道を歩くのが好きで、学校に通うことになる前から、この道をよく散歩している。

「スーちゃんはなにかクラブ入るの?」
「わたしは入らないわよ。やることあるから」
「そっか。ココロはどうしようかな」
「料理部だけは止めてくれると助かるわね」
「んー、料理は家でやる方が良いし……軽音部とか面白そうだったね」
「今日みたいな爆発事故をしょっちゅう起こさないのなら、良いかもしれないわね」
「音楽は爆発じゃないの? クラブの人が言ってたよ」
「実際に爆発させてどうするのよ。だいたい爆発を起こす楽器ってなんなのよ」
「でも、身体を思いっきり動かすのもいいなあ」
「まだ時間あるんだし、そう焦って決めなくてもいいでしょ」

 ブランはそう言って、ため息をついた。

「なんだか、昨日といい今日といい、疲れたわ。学校がこんなに疲れるとは。とくにクラブ見学だけは二度としたくないわね」
「ええっ! だいじょうぶ?」

 ココロが不安げにブランをのぞきこむ。

「なんならココロが元気がでる料理を――」
「遠慮するわ」
「どうしてッ!? 本当に元気でるよ!」
「元気の為になにを犠牲にすればいいんだか……」
「え、どういうこと?」
「独り言よ」

 二人が別れたのは、ココロの家の前だった。ココロの家はちょうどブランの家と学校への間にあるのだ。
 ココロは家の前まで来たブランに声をかけた。

「本当に送っていかなくていいの? だいじょうぶ?」
「ええ。だいたい、送ってもらったからってそう変わるものじゃないわ」
「そんなことないと思うけど……。そうだ、秘蔵のメロンソーダをご馳走するよ」

 ブランの答えを聞く前に、ココロは家に引っ込んでジュースを持ってきた。

「はいこれ! プレゼント!」
「プレゼントっていってもねえ……べつにめでたいことがあったわけじゃないでしょうに」
「ココロがあげるって言ってるんだからいいの! じゃあ、入学祝い!」
「あとからお返しを強要されそうな言分ね」

 ブランはふっと笑って、ココロからメロンソーダジュースの瓶を受け取った。

「ありがたくもらっておくわ。それじゃあね」
「うん、また明日ね!」

 ココロは、ブランの姿が見えなくなるまで家の前で見送っていた。


  つづく
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