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fairy's track ――第六話

 正直なところ、どうしてこんなに長くなりそうなことになってしまったのかわかりません。ここまでで三分の一ぐらい? いつ終わるんですか?(自問自答)

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話
 第五話

 第六話は more から。
  ◇ ◇ ◇


 初めての授業だ! とココロは意気込んでいた。頭のリボン調整に数十分をかけた。そのためにメロンソーダを飲む時間が足りなくなり、慌しい朝食になったが、おおむね理想の朝を迎えた。
 そして学校、ココロは夢の中で授業を受けていた。
 教壇から見てココロの右隣に座っているブランは素知らぬふりをした。今起こしてしまうより、授業が終わった後に起こして、からかってやろうと思っていたのだった。

 名目上、授業であるとはいえ、今日はまだ本格的な内容に入ったわけではなかった。教科に関する概要や方針、進行の方法などの説明が行われていた。やってきたのは昨日宿題を出した女教師であり、同時にココロたちの担任でもあるフィールではなかったし、またその助手でもなかった。教壇の前で説明に勤しむのは、かなり歳を召しているであろう男教師で、いかにも眠気を誘うゆるい話し方をしていた。
 本来なら担任であるフィールの仕事なのだが、フィールは今、学園長に呼び出されて注意されているところだったのだ。昨日、なにも知らなかった生徒たちを危険にさらしてしまったからである。
 当の生徒たちはとくに昨日のことを気にしたふうもなく学校に来ていた。中には、学校に来るなり、昨日の小競り合いの話で盛り上がっているものさえいた。
 しかし、そんな生徒たちも授業が始まってからというもの、多くはココロと同じく夢の中で授業を受けているのだった。それほど老教師の喋りはゆるかった。

「エー……つぎに歴史の授業でつかいます、この、表紙におおきな羽がかかれてある、みどり色の装丁のホンですね……他の教科書にくらべて、少々おおきくはありますが……コツコツとやっていくことになりますので、心配しなくていいですよ。アー……歴史といえば、妖精界最古の書物である――」

 ブランは頬杖をついてパラパラと歴史の教科書を適当にめくった。ブランがもともと歴史に詳しいこともあり、とくにこれといった目新しい記述は見当たらない。当然、そこにはピアから聞いたおとぎ話も載っていない。教科書にはただ、これまでに起きた出来事が時系列に淡々と記されているだけだった。
 寝息の数が、だんだんと増えてくる。





「私たちのやるべきことはただ教科書を読み上げることですか? 違うでしょう!」

 フィールは学園長を前に強い口調で言い切った。
 学園長と呼ばれた、翼をもった、紳士然として青年は穏やかにフィールの言葉を受け取る。フィールは続けた。

「私たちが生徒たちに与えるべきなのは、成熟などというまやかしの言葉に翻弄されない為の智慧です。取り組み方を考えさせることです。これからさらに彼ら生徒たちは困難と危機を前にすることでしょう。私はその予行演習を彼らに与えたんです!」

 学園長は淡々と答えた。

「しかし、フィール先生、あなた昨日『「ぴんくっ子ツインテール魔法のお手紙ビン限定版だよッ」セット』の列に並んでいたでしょう」
「二ヶ月前から狙っていたんです! 気になっていたにも関わらずあとで買えばいいやと思ってしまった歌姫フィギュアが『売り切れ。入荷未定』になっていたときに味わったあの絶望感……私の気持ちが学園長にわかるとでも言うんですか!」
「もちろんわかりますよ。だから私はそうならないよう、昨日の列で整理券一桁をゲットしましたし、フィギュアは3体買いました」
「なんですって!? 定価の2倍で買います! 売ってください!」
「断る。とにかくですね、生徒をみだりに危険にさらすことのないよう気をつけてください。ドラゴンだけでなく、最近はウイルスに似た謎の生物までその辺りをうろついているという話ですからね。エベリス先生も、よろしくお願いします」
「承りました」
「ちょっとぉー! 学園長! 話は終わってませんよ!」

 フィールの助手――エベリスはわめくフィールを引きずるようにして学園長室を後にした。ぶちぶちとフィールが文句を垂れるが、エベリスは聞く耳をもたなかった。





 フィールたちが教室に着く頃、老教師はまだ喋っていたが、教室はすやすやと穏やかな息を立てていた。

「ただいま戻りました」

 教室に入って老教師に声をかけながら、フィールは扉をノックした。ノックの意味がなかったが、それを咎めるものは誰一人いなかった。生徒は寝ていたし、老教師は後だしのノックに気づくには年老いすぎていた。
 老教師はフィールに残りを引き継がせる為に進行の具合を伝えようしたが、それをさえぎって、フィールは老教師に授業を続けるように頼んだ。
 そしてフィールはココロを呼び出した。
 しかし、ココロは寝ていたので当然反応はなかった。代わりに、ブランがフィールの呼びかけに応じた。

「ココロになにか?」
「昨日倒れたっていうから心配になって。起こしてもらっても良いかしら?」

 ブランはきびしい目でフィールを見据える。演技がかった調子でブランは言った。

「まあ、それはそれは。ずいぶんとお気にやまれたんでしょう、おかわいそうに。私たちが森になんて行かなければ先生の心配事も生まれなかったでしょうにね」

 フィールは若干引きつった笑みで答えた。

「そうね、学園長室に呼び出される羽目にもならなかったでしょうね」
「話が早くて嬉しいかぎりです。では、“学園長室からお戻りになった”先生は、どうぞ教壇の前でお仕事をまっとうなさってください」

 ブランはそこまで言って、わかりやすいぐらいに頬を固まらせたフィールを視界に納めたまま、後ろに見える助手に意識を向ける。
 あの助手がフィールに昨日のことを話したのだろう――と察しをつける。ブランには、フィールがココロだけを呼び出そうとする理由がそれぐらいしか浮かばなかったからだ。
 ブランは言葉を続けた。

「ココロはすり傷を二、三作っただけです。それも、昨日のうちに手当しました。先生方の心配をいただくほどのことはありませんでしたよ」

 これ以上話すことはないと言い切るように、ブランは教科書へと目線を戻した。
 しかし、フィールはふたたび声をかけてきた。

「私はここに来る前、データベース管理局に勤めていたのよ。エベリスもよ」

 データベース管理室――情報や資料を集めて、それを体系化する組織だ。妖精界では主に図書館、中でもとくに昨日ブランが訪れた『サンドレイク』に保管されている書物の整理などを行っている。
 ブランは知識としてその程度のことを知っていたが、データベース管理室と直接関わりをもったことがあるわけではなかった。その為、フィールの言わんとするところがすぐにはわからなかった。
 ブランが返事をしないでいると、フィールは言葉を加えた。

「私たちがもっている知識は、あなた――いいえ、あなたのお友達の力になれると思わないかしら」

 しばらく考えて、ブランはフィールの言う知識に興味を覚えた。当然、なにも知らないということはある。しかし、言ってしまえば、ココロに起こったことはすでにフィールにとっての知識になっているはずなのだ。助手がすべて見ていたのだから。
 それでもココロに接触しようと考えるなら、それなりの収穫を見込んでのことなのだろう。
 ブランはココロの肩をゆさぶり、ココロにしか聞こえないよう耳元でささやいた。

「……ココロ、起きなさい。起きないとメロンソーダが流出するよ」
「はッ!? りゅ、りゅうちゅイタッ! 流出!? メロンソーダのプライバシーは!?」

 大声をあげて飛び上がったココロに、教室内でまだ起きていたいくらかの生徒の視線が集まった。眠りにはいっていた生徒も目を覚ます。老教師は教科書から目を離さなかった。
 ココロが状況を把握できずに立ったままボーッとしていたところを、ブランが引っ張って教室の外へと誘導した。フィールとエベリスも続けて教室の外へと出てくる。

「ずいぶん賑やかになったわね」

 フィールが言った。教室はにわかにさざめきだっていた。老教師の眠気を誘う声はかき消されていた。

「それじゃ、どうせだから職員室に行きましょうか。今なら人がいないでしょうし」

 フィールが先導して、助手が続いた。ブランもとくに口を挟まず、ココロを引っ張ったままフィールたちの後を追った。

「はれ……?」

 やっと目を覚ましたココロが、メロンソーダのプライバシーを探していた。


 つづく。
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