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fairy's track ――第五話

 実は四話と五話は一つでまとめてたんですが、長すぎるかなと思い分割しました。二回分と思うと得に思えるから不思議!(絶滅フラグ)

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話
 第四話

 第五話は more から。

   ◇ ◇ ◇


 妖精界随一の図書館『サンドアレク』。取り扱っている本は難解なものが多く、ココロなら入っただけでめまいを起こして卒倒しそうになるような図書館である。サンドアレクは妖精界にある他の図書館とは違い、「ここに行けば妖精界の歴史と出来事がすべてわかる」と言われているほどの蔵書量と内容量を保有していた。
 ブランがここにやってきたのは、今日遭遇した灰色の木の暴走――そして、ココロの身に起こった不可解な出来事のことを調べる為だった。
 ココロに起きたこと。身体が光った、ということもあるが、もっとも奇妙だったのは羽だった。
 生まれた後に羽が生えるということは確かにある。成長の過程で、出てきたりするのだ。しかし、両親共に翼をもっていない場合にはまず起こりえない。そして――これが決定的なのだが――翼が一度生えた後にまた消える、などということは今の今までブランは聞いたことがなかった。しかし実際にココロが気を失っている間、一度翼は生えて、そして消えたのだ。ブランの目の前で、聞いたことのないことが起きたのだ。
 ブランはミニマム妖精であるヴューとルジュに本を探してくるよう遣いに出させて、傍らに積んだ本の山からまた一冊の本を抜きだす。

「羽……羽は――っと」

 口に出していたことに気づき、あわてて手で押さえる。どうも独り言が多くなっていけない、とブランは自分を戒めた。それもこれも、ココロの相手をした直後は、口数の調整が上手くいかないのだ。ココロといると、どうも喋りすぎてしまう。そして、ココロがいなくなっても、なにか喋りたくて仕方なくなってしまうのだった。
 ブランは休憩をいれるつもりで顔を上げる。すると、上階へと続く階段に知った顔があった。ピアだ。
 さっと周りに目を走らせ、近くに人がいないことを確認してから、ブランは軽く羽を使って跳躍した。ピアの近くにまでまっすぐ上に飛んでいく。
 途中で気づいたのだろう、ブランが声をかけるよりも先に、ピアがブランを認めた。

「図書館は飛行禁止ですよ」

 ピアが人差し指を立てて注意する。ブランが素直に謝ると、ピアはほがらかに笑った。

「わざわざサンドアレクに来るなんて、勉強熱心なんですね。それとも、先生からいきなり宿題でも出されてしまいましたか?」
「もし宿題だったら、手伝ってもらえますか」
「せいいっぱい応援しますよ。向かいの席からね」
「それは残念です――いえ、応援してもらえなくて、ですけどね」

 ピアは合点がいった様子で、頷いてブランに先を促す。

「お聞きしたいことがあるんです。枯れ木のことと……羽のことで」
「枯れ木ですか……。枯れ木のことなら、ちょうど今日はそのことに詳しい友人と来ているので、彼女に聞いてもらった方が良いかもしれません。羽、は具体的にどういう……ああ、とりあえず席につきましょうか」

 ピアに誘導されて向かった先では一人の少女がいた。一心腐乱に本に注視していたが、ピアとブランが席に近づくとわずかに顔を上げた。その顔を見て、ブランは思わず、少女はココロよりも幼いだろうという印象を抱いた。
 ブランが挨拶すると、少女は頷きもせずブランに目だけを合わせて「トライフェ」と告げ、また本に目を戻した。ピアが彼女の名前です、と付け加える。

「ラフェ、ちょっといい?」

 ピアが声をかける。トライフェのくりっとした大きな目がまた起き上がる。

「枯れ木のことで、ブランさんが聞きたいことがあるらしいの。すこしお話してくださらない?」

 トライフェはやはり頷くことなくブランに目だけを向けた。これを了解と受け取り、ブランは話し始めた。
 トライフェの話は、ブランが思っていた以上に悪いものだった。ブランは森の木が枯れ始めていることを知っており、それがだんだんと規模を大きくしているということまで知っていたが、それにしたって、やはり想像に過ぎなかったのだ。しかし、実際に木への対処を行っているトライフェ――トライフェはセキュリティの専門であるようだ――の話によると、取り扱う機会は大幅に増えてきており、また、灰色の病とも言うべき木の悪化は進行するばかりだという。ひどい木になると、周囲の他の木をなぎ倒してしまうほどの力を持つのだということだった。

「女王様も各方面に対処していらっしゃるようだけど、ラフェのように対処できる人が、みんなで動いても足りないぐらい広がっているみたいなのよ。困ったことね。どうしたらいいのかしら」

 ピアがトライフェの話へ継ぎ足すかのように言った。ブランはどう答えていいかわからず、曖昧な相づちを打つことしかできなかった。
 ブランの様子を見てか、ピアがふたたび口を開いた。

「それで、他にもあるんでしょう? 羽の話」

 ブランはココロの名前を伏せて、「ある友人が、今日灰色の木とあったときに――」という形でココロに起きたことを説明した。すこしばかり期待していた灰色の木と繋がりがあるかもしれない、という考えはトライフェの様子を見れば一目瞭然だった。トライフェは話は聞いているふうではあったが、話せることがないと判断したのだろう、口を開くことはなかった。
 一方、もともと頼りにしていたピアの方も、歯切れは悪かった。

「思い当たる話は聞いたことがありませんわ。一度は生えた羽……どこに消えてしまったんでしょうね」
「わたしもふしぎに思わずにはいられなくて。それでここになにかヒントが無いかとやって来たんです」

 ピアはしばらく唸っていたがやがて自信なさげな口調で答えた。

「ヒントになるかどうかはわかりませんけれど。ブランさんはお話を読んだりしますか?」
「お話……? それは、創作話、という意味ですか」
「ええ。子供に聞かせるような話」
「普段からそういったものを読んでいるということはないですね。人並みにしかわかりません」
「そうですか。実は、そのお話に、少し似たような話があるんです。とある妖精が光の羽を背負って、世界中を旅するんですよ。ぜんぜん知らない世界まで飛んでいけるんです」
「夢みたいな話ですね」
「ええ、夢なの」

 ピアはいたずらっぽく笑って、続けた。

「その妖精は夢の中でしか羽をもっていないのだけれど、目が覚めると、空が飛べそうな気がする、と思うのよ。
 ある日、その妖精は夢じゃない現実の世界で、別の世界と繋がる場所を見つけるんですよ。夢の中で、別の世界に繋がっていた場所なんです。でも、そこはとても古びていて、今にも崩れ落ちてしまいそうだったんです。妖精は友達の手を借りて、これを直します。やがて、その場所の修復が終わると――」
「なにが起こったんです?」
「いいえ、なにも起きませんでした。このときはね。その日、妖精はまた夢をみました。直したばっかりの場所を夢を見て、目をさますと、妖精には羽が生えていたんです。小さな羽が」
「……その話はどう続くんですか?」
「小さな羽はすぐに消えてなくなってしまいましたが、妖精はいろんな世界に繋がっている場所を見つけて、それを一つ一つ元の姿に戻してあげるんです。直すだけじゃなく、ときには、ドラゴンと戦ったり、花を植えたり、水を引いてきたり、夢の中で見たのと同じ形になるようにしたんですね。それが進むたびに、少しの間だけ現れる妖精の羽はだんだんと大きくなっていきました。しかし……妖精は、それぞれの場所が別の世界に繋がっていることはわかったのに、いつまで経っても別の世界に行くことが出来ませんでした。行く方法がわからなかったんです。夢の中では、いろんな世界を旅して回っていたのにです」

 ブランは想像する。夢に見てもたどり着けない場所――届かない場所。近くにあるはずなのに、繋がらない。それはいかんともし難いもどかしさを思わせた。

「妖精は夢はただの夢かもしれないと思い始めました。そんなとき、とうとう、妖精は消えない羽を手にしました。夢の中の羽と同じ羽でした」

 ピアは一つ息をついて言葉を継いだ。

「そして、妖精は現実の世界からいなくなってしまいました」

 一瞬、ブランは思考を停止せざるを得なかった。ブランはしばらくして、ピアに言った。

「――つづきは?」
「これで終わりですよ。『妖精は夢の世界の住人になりました。』という結びでこの話は締めくくられます」

 ブランはピアの話を反芻しながら、ぼんやりと呟いた。

「つまり……そういうことが、わたしの友人にも起こり得る、と?」
「いいえ、まさか。これはただのお話ですよ。おとぎ話みたいなものです」
「そう、ですよね。お話……よろしければ、タイトルを教えていただけませんか? その話の」
「ああ、タイトル――申しわけありません。失念してしまいました。羽のことはわたしも調べておきますので、そのときにまた確認しておきます」

 ブランはピアとトライフェにお礼を告げてから、先ほどの席に戻った。本が山となっていたが、もう開く気にはなれなかった。
 ヴューとルジュが抗議の声をあげてくる。ブランはそれに力無く謝った。あまりに珍しいことに、ヴューとルジュは目を丸くした。ブランがヴューやルジュに謝ることなど滅多にないのだった。
 ヴューが言った。

「にょにねの」

 ――どうしたんだ? という言葉だった。
 言葉を発音できるルジュが引き継ぐ。

「こまったこと?」

 ブランは答えることができなかった。そもそも、なにがどうなっているかもわからなかったのだ。ただのおとぎ話を聞いただけであるにも関わらずだ。
 だんだんとそんなわけのわからないことに振り回される自分に腹が立ってきて、ブランは大きなため息を落とした。そして、本を片付け始めた。


 つづく。

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