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fairy's track――第四話

 ココロの話なのにココロは意外と出番が少ないという。
 メインヒロインはなかなかメインヒロインだと思われない法則が発動です。

 Prologue
 第一話
 第二話
 第三話

 第四話は more から。


   ◇ ◇ ◇


 妖精の泉は、美しい緑色をしている。透きとおっていて、ふわふわとしていて――言ってしまえばメロンソーダのようなものだった。
 しかし、妖精の泉の水はとても飲めたものではなかった。メロンソーダのように甘いわけでも、水のように味が薄いというわけでもない。見た目のやわらかさからは考えられないほどに苦く、そして辛く、舌がしびれてしまうような味なのだ。
 妖精界の文献では「悪魔も尻尾をまいて逃げだす味」や「ドラゴンコロリ」などという記述がなされているが、それでも妖精の泉の水に挑戦する前には後を絶たないので、今では妖精の泉の周辺に「その一口が運の尽き」「来る明日、来ない明日」といった文章が書かれた看板が立てられてある。
 飲み水としては穏やかでない言われようである妖精の泉だが、妖精界の人々は、妖精の泉や、泉を取り巻く素晴らしい外観を大切にしていた。自発的に妖精の泉周辺の掃除を行う人が数多くいるほどである。
 妖精の泉は泉としてはさほど大きいわけではなく、形状は比較的まとまっている楕円形で、横幅の一番長いところが約10m、縦幅が約6mほどでしかない。妖精の泉よりも、成熟したドラゴンの方がよほど大きいほどだ。ただし、妖精の泉には周りを囲う祭壇のようなものがあり、これがかなりの大きさを誇る。祭壇は妖精界原初の建築技術だといわれるロフク調の造りで、未だに柱一つ欠けることなく建ちつづけている。建っている、とはいっても、自然の風景とすっかり一体化しているこの祭壇は本来の役目を失い、今では森に住む小鳥の集会所としてしか使われていない。
 その日も祭壇には小鳥が集まり、他愛ないおしゃべりを楽しんでいた。
 しかし、まもなく小鳥たちは祭壇から離れる羽目になった。誰かが来たのだ。一匹が飛び出すと、二匹、三匹と続いて出て行った。結局、祭壇からは小鳥がみんないなくなった。
 祭壇には、一人の幼い少女が残った。
 少女は道に迷って、そこまでやって来ていた。途中からは、小鳥の鳴き声を追ってやってきたのだった。少女はそこが祭壇――そして妖精の泉だとわかっていて訪れたわけではなかった。
 そのとき、小鳥たちは近くの木に止まって妖精の泉の前でうろうろする少女を見ていた。あるいは見守っていた。
「また一人犠牲者が……」「無茶しやがって……」「のむのか? のむのか? のんだのか?」「しかし、彼女を止めないでもいいのかね」「止める? 今止めると言いました? バカバカしい! 私たちのやることは今私たちがやっていることに限るのですよ、ミスター……ええと」「フレッドです」「フレッド、あなたは目の前で殺人なり誘拐なりが起きていたらどうします? 止めますか? まさか。そんなこと、してはいけません。私たちはただの小鳥ですからね、スズメが殺人を犯せば、どこぞのハエが目撃しますよ。そして死体の処理からお葬式まで、すでに手配は済んでるんです。私たちはそれを見送るだけでいいのですよ、ミスター……ええと」「グレッグです」「グレッグ。あなたは魅力的な方ですけれど、どうも良い趣味とは言えませんわね」「つまり――あなたにはアリバイがないと、そう仰るわけですね」「ええ、まったくその通りですよ、それが法律にのっとった質問であるならば、ですけどね」「いいえ、それはペンです。しかし、そのペンは彼女のものではありません。あなたはペンをわたしにくれますか?」「No」「それは残念です。それでは、あなたの神にどうぞよろしくお伝えください。さようなら」「No thank you」
 やがて少女の足は泉へと向かっていった。祭壇の奥へ、奥へと進んでいく。迷子になってはいたものの、少女はそれほど不安を覚えているわけではなかった。そのうちどこかに出るだろう、と漠然と思っていた。それは確かに間違いではなかった。少女は、友達のところや両親のところよりも先に、妖精の泉へとたどり着いた。
 少女は妖精の泉への訪問者の例に洩れず、やはり妖精の泉の水を飲んだ。
 しかし、そこから先はいずれの訪問者とも違った。口に含んだ水を吐き出すこともせず、また味に顔をしかめるでもなく、少女は妖精の泉の水を難なく飲み干して、のどを潤し森を出て行った。
 少女は森を出ると友人に会い、ひどく怒られたが、すぐにまた遊びはじめた。
 少女はそのとき幼く、自分がなにをしたかわかっていなかった。その後も少女はそのときのことを思い出すことはなかった。
 ただ、その日から、少女はメロンソーダのジュースを好んで飲むようになった。





 ココロはドラゴンにつつかれていた。
 なんとか仕返ししようと手足を振り回してみるが、いっこうに当たらない。こうなったら奥の手だ――と思い、帽子を手にかけようとする。
 が、

「あれッ!? ないよ!」

 帽子がなかった。両手で頭の上を探す。見つからない。どこかに置いてきてしまったのだろうか。
 そうこうしている間に、ドラゴンが羽ばたいて、遠くへと飛んでいってしまった。ホッと安心したのもつかの間、今度は雷が鳴り出した。
 ズガーン! ズガーン!

「わわ、あわわわ……つ、つくえ、机はどこ……」

 探してみるが、どこにもなかった。ココロは地面にはいつくばって逃げまわる。
 はるか上空で断続的にゴロゴロと鳴ってはいたものの、雷は落ちてこない。心持ち、ココロが平穏を取り戻したそのとき、
 ズギャギャギャーン!!

「キャアアァァァアーーーーーー!!」

 両手で頭を隠す。すっかり腰が抜けて、もう動けそうにはなかった。ココロは念仏のように諦観の声を落とす。
 ――ダメだダメだカミナリさまにうたれるおへそをうばわれるぅぅっ。

 そして、目が覚めた。
 辺りを見回そうとする――と、視界が黒いギザギザにさえぎられていた。視界をおおっていたのはブランの使い魔だった。ミニマム妖精の羽がぺちぺちとココロの顔をはたく。
 ココロはミニマム妖精を手でつまんで、適当にぽいっと放り投げた。
 「にゅののー」と抗議の声があがる。ココロには、ミニマム妖精がなにを言っているのかさっぱりわからない。

「ヴュー、しずかにしなさい」

 お盆にメロンソーダが入ったグラスをもって、ブランがやってきた。
 ココロは体を起こしながら、部屋を見渡した。ココロが今住んでいる家よりも広い部屋――大きな天窓がついていて、まるで吹き抜けになっているように見える。部屋全体が青空のように明るかった。落ち着いた色合いで揃えられている家具に陽光が合わせているように思えた。ぬいぐるみやかわいらしい小物の類はなく、その代わりにミニマム妖精が二人。ココロは、ブランの部屋にいたのだった。

「スーちゃんの家? ココロ、どうしたんだっけ……」

 ブランからは返答のかわりにグラスが差し出された。礼をいい、一息に半分ほど飲み干す。
 ブランもジュースに口をつけ、しばらく、二人は黙っていた。
 
「……あんたのせいで明日は筋肉痛だわ」

 やぶからぼうにブランが言った。

「どうして? あっ、さっき暴れたから?」
「あんたが重いからよ」
「言葉はもっとやわらかい生地につつんでッ!」
「――それで?」
「それで、って?」
「倒れたでしょ。その……以前からそういうことはあったの? 身体が光ったり、いきなり倒れたり――」

 ブランは一瞬言いよどんだが、すぐに言葉を取り戻した。

「――羽が生えたり、とか」

 ココロはブランの言葉を飲み込むのに長い時間を要した。光が出ていたことまでは覚えている。ただ、その後はすっかり混乱してしまって、よく覚えていなかったのだ。いつ意識を失ったのもわからなかった。
 そして、それよりもココロはブランが言った羽のことが気になった。

「羽って……、スーちゃんみたいなの?」
「こういうのじゃなくて、なんていうか、つまり、あーもう!」

 ブランは頭をわしわしと引っかきまわした。
 ココロはブランの凶行を畏怖の目で眺める。ブランらしくない、奇異な仕草に思えたからだった。

「なっ、なに……?」
「きょうは、いいわ。またにしましょう。歩けそう?」
「う、うん、たぶん」
「わたしは図書館――サンドアレクに行くから。そこまで一緒に行きましょう」

 有無を許さない調子のブランの言葉に勢いで頷いてしまったものの、ココロは今の自分の身体の調子というものがどうもわからなかった。おそるおそる、ベッドから身体を降ろす。すると、微妙な違和感があった。
 声に出すほどではなかったが、それは不思議な感覚だった。身体が軽かったのだ。まるで、それまで宙に浮いていたかのように。ふわり、とココロの身体は床に着地した。

「ヴュー、ルジュ、ついてきなさい」

 ブランがミニマム妖精を呼びつけると、二人はすばやくブランのもとにやってきた。
 と思ったら、そのうちの一人がココロの頭の上に乗っかってきた。

「あっ、こら! ヴューちゃん!」

 ココロも頭の感触に気づいて、あわてて手を伸ばす。
 先ほどココロの寝起きの視界を遮ったのと同じミニマム妖精――ヴューだ。ヴューはなにかというとココロにこうやって構っているのだった。

「行きましょうか」

 ブランが部屋を出る。ココロもあわててブランの後を追った。ヴューを頭の上に乗せたままで。


 つづく。
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