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第二話

 えらい遅い第二話。ちょっと長い。

 Prologue
 第一話

  ◇ ◇ ◇

 始業式が終わり、ココロとブランはとある教室に案内されることになった。
 教室には、横に長い机に隣合わせになって座っているココロとブラン、その他に十数人ほどの顔があり、その全員と向き合うようにして一組の男女が教壇の前に立っていた。女性の背が低いのもあってか、男の存在がやたらと際立っていた。実際、新入生の多くは男の方に視線が集まっていた。
 覚めない興奮のままさざめいている新入生を前に、女性が拍手を打つ。新入生たちの注意が女性へと向かった。

「今日からみんなの担当になるフィールですよ。よろしくね。それからこっちは助手」

 フィールと名乗った女性はほんわかとした見た目にそぐわない軽快な調子の声で告げた。男性は無表情無反応でフィールに促されるまま頭を傾ける。じっと見ていなければわからないほどわずかな会釈だった。

「なんか、あの助手の人、怖そうな人だね」

 ブランに頭を寄せて、ココロがひそひそとつぶやいた。

「面倒なだけなんじゃない?」

 そっかー、と妙に納得してしまった。ココロも、もうすっかり眠くなってしまっているのだ。ちゃんと座っているのが面倒に感じられてきていた。
 それというのも、ココロは入学までの間、ひたすら寝て過ごしていたからだ。今日だって、ブランが家に来てくれなかったら、まだずっと寝ていたことだろう。いくらでも寝ていられるのは、ココロの特技のようなものだった。
 フィールは助手であるという男性に指示をして、黒板に『天下統一』の文字を書かせた。言葉を確認すると、フィールは新入生を見ながら、黒板を叩いて示す。

「私はビシビシいくからね。ちゃんと着いて来てね。目指すはネット界の征服。この学校――いいえ、このクラスの出身者だけで未来のネット界を牛耳るつもりでいきましょう。ね?」

 フィールの調子があまりに軽いために、ほとんどの生徒はつられて頷く。
 ココロもぼんやりとしながらうんうんと頷いていた。しかし、当然の如く、ココロはフィールの話をまるで聞いていなかった。

「今日はとくにやることもないし、本当はこれで終わりなんだけど……これから輝かしい未来を担っていくであろうあなた達に、私からちょっとした宿題を出したいと思います」

 フィールの発言にざわざわと教室が鳴りだす。助手がやはり無言で、今度は『木の調査inネフテーの森』と文字を黒板に書き出した。

「種類は問わないからね。今日中にネフテーの森にいって調査してくること! 明日チェックするよ。やって来なかったらプールの中に叩き込んで泳がせながら妖精としての心得をえんえんリピートしてあげるからね」

 生徒たちがなにかを言うよりも早く、フィールは「じゃあ解散!」と言い残して、助手を率いて教室を出て行った。教室には、呆気に取られた生徒たちが残された。

「……おいおい、どうするよ」
「どうって、やるしかないんじゃない?」
「調査ってなにを調査したら良いんだろう」
「お花の採集でもしようかな」
「現実逃避なのか頭の中がお花畑なのか判断がつきにくいな……」
「そうだ! 旅にでよう!」
「ボク、この調査が終わったら水浴びするんだ……」

 ひとり、ふたりと騒ぎ始めると、教室が揺れだす。それまでまったく面識のなかった者同士でも、フィールが出した課題について言葉を交わし始めた。
 行動の早い生徒たちは、実際に行けばなんとかなる、と言って早速森へと向かう。それに続く生徒もいた。
 そうして、それぞれの動きが決まり出す中、ココロはやっと眠気との戦いに決着をつけようとしていた。

「ココロの目が覚めたら、ココロを起こしてください……」

 完璧なる敗北だった。

「寝るな」
「あぐッ」

 それまでココロの様子をうかがっていたブランが絶妙なタイミングでココロの睡眠世界を破壊した。

「イタいっイタいっなんか痛かった」

 とうとつに現実世界へと舞い戻ったココロは、きょろきょろと周囲を見渡し、頭の痛みを訴えた。
 ブランはそれを無視して、慌てた口調を装ってココロに言った。

「はやくネフテーの森に行かないとココロの大好きなメロンソーダが滅亡するよっ」
「ウソぉッ!? 戦況は!?」
「グレープが優勢ね。オレンジが次点。あ、メロン滅んだ」
「そんなああぁぁあぁッ!!!?」

 ココロが断末魔の叫びと共に、頭を抱えて机に突っ伏す。近くを通ろうとしていた生徒が驚きと奇異の目でココロを眺めていた。

「一足遅かったわね……。あそこでココロがシャイニングメロンレーザーを使っていればこんなことには……」
「う、うぅぅぅ……。ココロがふがいないばっかりに……」
「いいえ、諦めるのはまだ早いわよ、ココロ」
「スーちゃん!? どういうこと?」
「まだ、ネフテーの森に希望が残っているわ。ネフテーの森には使われなくなったメロンソーダ製造工場があるそうよ。そこを稼動させればあるいは――」
「そ、そんな場所があっただなんて……! ココロ行くよ! 世界を守る為に! ネフテーの森へ! ……森へ?」

 ココロがそこで始めて辺りを見回した。紛うことなき教室。いくつもの視線がココロに集まっている。

「……スーちゃん」
「じゃあ、行きましょうか、ココロ。世界を守る為に」

 ブランはココロが次の言葉を発する前に、ココロの腕を引っぱって教室を後にした。



 ネフテーの森。ココロとブランの二人は、他の生徒のようにフィールの宿題についての話し合いをすることなく、ネフテーの森をうろうろしていた。まだなにをするかは決まっていなかった。

「ヒドいよ!」
「いつものことじゃない」
「そうだよ、スーちゃんはいつもヒドいよ! いくら温厚で優しくて思慮分別のあるココロでも怒るときはしっかり怒るよ!」
「どさくさにまぎれて聞き捨てならないことを言うわね」
「話をそらさないの!」

 憤慨してブランに突っかかるココロとは反対に、話をしながらも、ブランはフィールの課題について考えていた。調査と一口にいっても、森はさまざまな要素を持っている。それこそ、ネフテーの森に限らず。
 しかし、そうした思考をめぐらせながらも、ブランにはどうしてフィールが課題にネフテーの森を指定したのかおおよその見当がついていた。

「え……? ちょ、ちょっとスーちゃん、あれ見てあれ!」

 ぶつぶつと文句を言っていたココロが、興奮した様子でブランに言った。

「あれ? ――ああ、あれね」

 ブランの『見当』が、ココロが示す場所で起きていた。

 大きな木が枯れていた。灰色になってしまった木。葉っぱはひとつもない。枝のいくつかは折れて、地面に転がっている。枝には、小さな木の幹ほどの大きさのものまであった。もう木は死んでいるように見えた。
 その木の周りには、多くの生徒が集まっていた。ココロたちと同じクラスの生徒たちだ。

「ココロたちも行こ!」

 ココロが木に駆け寄っていく。ブランは、その後を歩いて付いていった。
 木の近くまでに来ても、なんら見えるものが変わることはなかった。ただ、先ほどとは違い、生徒たちの声がブランの耳に入ってきた。その多くが戸惑いの声だった。
 木の惨状を間近に見たココロも、同様に反応を示した。ブランの隣で、小さく声をあげる。

「どうしてこんなことに……」

 話しておくべきだろうか――ブランは、一瞬、迷った。だが、すぐに話すことを決意した。
 ココロが今後ブログ妖精を目指すなら、避けては通れない話であることがわかっていた。遅かれ早かれ知らなければならなかった。
 ブランは要点をまず伝えようと、ココロに向き直る。

「ココロ――」
「きゃあああッ!」

 しかし、それを悲鳴が遮った。女生徒の声だった。
 動揺が駆け巡った。生徒たちはあっという間に混乱に呑みこまれる。

「えっ、どうしたの?」

 現状についていけず、不安げにココロが言う。
 ブランもココロと同様に状況が掴めていなかった。ブランは混乱の元をたどる為に、悲鳴があがった場所を中心に意識を走らせる。まもなく、ブランは明らかに異質な事態を見つけた。

「――――」

 しかし、それはブランの理解を超えるものだとしか言いようがなかった。
 木の折れた枝が、動いていた。灰色の枝が、意思を持ったように動き、生徒たちを追いかけ回していたのだ。大小を問わない枝たちが、まるで生き物のように動いている。気味が悪いとしか言いようがない光景だった。
 ブランはココロの手をとった。

「逃げるわよ」
「どうして?」

 まだ事態を理解できていないココロは、ブランに疑問符だけを投げかけてきた。好都合だった。
 ブランはココロに悟られる前にその場を離れようとした。ココロを連れて行こうと、手に力をこめる。

「スーちゃん?」

 しかし、異常を察したのか、ココロはブランに抵抗する。

「わけはあとで話すからはやく――」
「スーちゃん!? 後ろっ!」
「――え」

 言われるままに、後ろを向く。
 すぐ目の前――ブランよりも大きい灰色の枝がいた。大きな物体で視界の多くを覆われる。ただそれだけのことでなぜこれほど圧巻されるのか。戸惑う意識とはべつに、ブランはココロと繋いでいた手をほどき、軸足に全体重をのせる。木が真正面からブランに近づく。ざくざくざくと枝が葉を踏みしめる。枝の速度は速い。ブランの一呼吸の間で距離は半分詰まっていた。ざくざくざ――枝を待ち、射程に入る寸前、ブランは枝の上段へ側刀蹴りを放つ。
 枝が倒れるのを確認せず、ブランは逸る鼓動を抑えながらココロに手を伸ばす。
 しかし、手を伸ばした先に、ココロはいなかった。

「あれ? ココロ!?」

 ブランは混乱に襲われている生徒たちの方に振り返る。ココロの帽子を探すが、どこにもない。

「ココロ! どこにいったの!?」

 飛び交う悲鳴や怒号に負けない大声で叫ぶ。

「スーーーーちゃーーん!」

 かなり遠い場所から聞こえたように思われた。ブランは目印であるココロの帽子を探す範囲を広げる。見つからない。
 ブランは焦って、走りだそうとした。すると、ふたたびココロの声が聞こえた。

「うーーーえーーー」

 上。上? ブランが上を向く。すると、とんでもないことに、ココロは枝に捕まって上空でふらふらしていた。

「な……なんでそんなところにいるの!」
「わかんないよーーー!」

 ブランには余計にわかるはずがない。
 ブランはココロを捕まえている枝を見る。そして、呻いた。

「うわ……そんなのあり?」

 枝の元には、灰色に染まった大きな木。先ほどまで生徒たちが集まっていた木だ。どうやら、地面に落ちた枝だけでなく、大元の木まで動いているらしい。
 木を根本から折るにはさすがに力が足りない。かといって、登って枝を折るには時間がかかりすぎる。――ブランがココロを助ける方法を模索しているときだった。
 ココロに向かって、大きな黒い影が飛び掛っていった。
 黒い影はココロを捕らえていた枝を木と切り離した。鋭利な刃物を使ったのか、ココロが枝にぐるぐる巻きにされたまますぐに落ちてくる。

「なっ――」

 ブランはあわててココロの下に滑りこむ。ココロよりも、わずかにブランの方が早かった。ブランはココロを抱きかかえる形になりながら、衝撃を受け止める。ココロの体躯の小ささになんとか救われた。ブランは腕のしびれに対する憤りを、ココロを木から枝ごと切り離してそのまま遠くに着地した黒い影へと向ける。
 黒い服に身を包んだ男。顔はよく見えなかったが、フィールの助手であることはすぐに察しがついた。
 助手は着地の勢いを殺したあと、すぐに次の行動に移っていた。他の生徒を助けにいったのだろう。おかげで、怒鳴りつける暇はなかった。

「び、びっくりしたぁ……」

 ブランに抱えられたままココロがのほほんと言う。ブランはココロを落とした。

「うわっ! なにするの!」
「いつまでも乗ってないの。それにしても……なにされちゃってんのよ」
「そんなこと言われても……。えいっ、ええいっ」

 ココロは体ごともがいて、枝から抜けだした。

「スーちゃん、ダメだよ。みんな困ってたのに……」

 立ちあがるなり、ココロは怒りを滲ませてブランに言った。
 ブランはため息を落として、首を振った。

「今更でしょ。ほら、はやく逃げるわよ。あの人――助手の人が来たから、みんなもだいじょうぶよ」
「スーちゃんは、優しいのに冷たい。どうしてココロだけ助けたの?」

 咎めているのか、問い詰めているのか。ココロの意図がどうであれ、ブランはこの手の話に答える気はなかった。

「あとでいいでしょ。そういう話は」

 ブランはココロの手を掴もうとしたが、ココロはやんわりとそれを遮る。

「みんなを助けないと。ケガするかもしれないし」

 ココロがまだ収拾のつかない場所を見ながら言った。
 助手がなんとかしているようだが、その辺りをうろついている枝の数が多すぎた。生徒にも抵抗しているものが一部いるが、まだ混乱している生徒の方が多い。もう少しすれば、多くの生徒が冷静に対処できるようになるかもしれないが、それまでの間になにが起きないとも限らなかった。ブランは淡々と、現状を考察する。

「ココロになにができるのよ。あれをどうするの?」

 そして、ブランはわざと煽るように言った。しかし、ココロはいたって真面目な面持ちで答える。

「パンチする!」
「手が痛くなるよ」
「じゃあ、キックする」
「パンツ見えるよ」
「じゃあ、やっぱりパンチする」
「あのねぇ……」

 ココロの物言いに、ブランはすっかり呆れかえった。

「そのあんたが、今まさにケガするとこだったんでしょう! のこのこ出て行ってフラフラへにゃへにゃ手足を振り回せばどうにかなるって、本当にそんなこと思ってるの?」
「ビシバシできるもんっ!」

 無理でしょ――胸中でブランは呟いた。ココロが事態を把握できていないうちならさっさと逃げ出せばよかったが、もうどうにもなりそうになかった。今更逃げようとしたところで、グダグダと抵抗するココロを無理やり連れてはいけないだろう。しかも、もうすでに先ほど蹴り飛ばした枝も起き上がっているようだったし、集団から少し離れているブランとココロの元にも、のそのそと枝が寄ってきている。
 ブランは、ココロと二人で逃げ出すのを諦めるしかなかった。

「……もう。わかったわ」

 ブランは大きなため息をココロに見えるようについてみせる。

「ココロは、あっちでわーわー言ってる人を一箇所に集めて。集まったら、そのまま来た道を戻るよう誘導すればいいわ」

 一番の問題は、混乱している生徒たちをどう一箇所に集めるか、なのだが、そんな疑問を抱くことなくココロは力強く笑った。

「うんっ。やるよ!」
「また捕まったりしないようにね」

 ココロが気合の入らない怒号をあげ、とてとて走っていく。どう見てもどうにかできそうにはなかった。
 ブランは手足を慣らしながら、事態の核である大きな木を見た。灰色に染まった枝を無造作に動かしている。そこに目的意識があるようには思えない。

「……燃やしたら大人しくなるかしらね」

 この場において、ブランがもっとも灰色の木のことを理解しているだろう。つまり、灰色の木が最初の被害者であるという事実を知っているという意味で。しかし、ブランにとってそれは同情に値するものではなかったし、すでに木は加害者になっていた。
 ブランは、ただ、木をどうにかする方法だけを考え始めた。


 つづく。
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