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第一話


 というわけでPrologueの続き。

 いろいろとぶん投げていますが、容量的にこの辺りで切るのが妥当かなーと、なんていうのは嘘で、ただ単に書けなかっただけともいう。

   /fairy's track/ 第一話


 二人が学校に着くと、入学式が行われている講堂はもう閉まっていた。
 外は閑散としており、校舎も静まり返っている。講堂の中からマイクを通したくぐもった声がささやかに聞こえてくるだけだった。

「ココロのおかげでわたしも晴れて不良学生の仲間入りね。しかも初日から」

 閉まりきっている鉄扉から中の様子を窺っていたココロの隣で、壁に背を預けていた女の子が口を開いた。

「ううぅ。ごめんね、スーちゃん……」
「べつに、まぁ、いいんだけどね。真面目な顔してても、すぐにボロは出るだろうし。わたしだけじゃなく、もちろん、ココロもね」

 軽い調子で言い切る女の子にココロは言い返したくなったが、講堂の中で入学への祝辞が述べられているのを聞いてしまうと、女の子への罪悪感が込みあがってきて、結局なにも言えなくなってしまった。
 ――ココロの傍らに立つ女の子は、名前をスシェブランルムグウェリズという。初対面のとき、その名前を覚え切れなかったココロは、勝手に頭文字をとってスーちゃんと呼ぶことにしたのだった。その後、ココロは本人から、通称はブランと呼ばれていると聞いたが、ブランはスーちゃんという呼び方について言及しなかったので、ココロはそのままスーちゃんと呼び続けている。

 しばらくの間、ココロは講堂の扉の前で聞き耳を立てていたが、終わる気配どころか区切りすらも見えてこない長々とした調子の話に辟易し、やがて、ココロはため息をこぼして扉から身を離した。肩を落として、手ごろな石段に腰を下ろす。

「話が長いばかりの人はどこにでもいるけど、このままじゃ中に入る機会は無さそうね」

 ココロの隣に肩を並べながらブランがそんなことを言う。同じ状況を共有しているとは思えないほどブランは落ち着き払っていた。

「スーちゃん、余裕だね。なにか良い方法でもあるの?」

 ココロが訊ねると、ブランは頷いた。

「あるよ。たとえば、中に入った瞬間ココロが大声で叫んでみんなの注意を引きつけている間に私が列に混じるとか、ココロが裏口から中に入ってステージを乗っ取ったところで私が列に混じるとか」
「スーちゃんってときどきココロにだけ冷たいッ」
「被害妄想が極まるとメロンソーダがネギに見えるようになるらしいわよ」
「またそうやって嘘ばかりついて! もうだまされないよ!」
「嘘なんて言わないわ、本当の話よ。人間界で話題になってるもの。緑色のものが全部ネギに見える病気。俗称ではみっくみく病って言われてる。感染経路はわかってないし、治療法も確立してない。ただ、この病気にかかった人に共通することがあって、この病気になるとネギに見えるものを手に持ったら振り回したくなるのよ。あなたの場合はメロンソーダを見ると振り回したくなるのね。もうメロンソーダは飲めなくなるわね、かわいそうに」
「そ、そんなもっともらしいこと言ったってだまされないよーだ!」
「そう。ココロがそう言うなら、私はもう何も言わないわ」

 ブランは哀れむような視線を投げかけてくる。

「もーっ! もーッ!!」

 もやもやの持っていく場所に困って、ココロが立ち上がって吼えると、それを見てブランがニヤニヤ笑いだした。

「本当にココロは落ち着きがないわねえ。先が思いやられるわ」
「きーっ、スーちゃんこそ! 嘘ばっかりついてたら今に誰も信じてくれなくなるよ!」
「嘘なんてついてないよーだ」
「まねっこしないでッ!」
「はいはい、ココロちゃんの得意技とっちゃってごめんねー」
「得意技とかじゃないもん! ちょっとスーちゃん、そこに直りなさい!」
「嫌よ。下ろしたての制服をよごしたくないもの」
「じゃあ、ココロのお話をちゃんと聞きなさい!」
「嫌よ」
「ええっ、どうして!?」
「聞きたくないから」

「くっキーッ!!!!!!!」

「ふう、最近、ココロの言葉が翻訳できなくて困るわ」
「スーちゃんが! スーちゃんがッ!!」
「なに、そんなに私の美貌の秘訣を知りたいの? それはね――」

 激昂するココロの前で姿勢を崩さないまま優雅に話していたブランが、ココロの背後を見て言葉を止める。ココロはまた口を開こうと意気込んだが、ブランのものではない声に遮られてしまった。

「楽しそうですね」

 ココロは反射的に振り返る。ふいを突かれたことへの驚きは、その穏やかな声からは与えられなかった。

「あんまり楽しそうでしたから、釣られてやって来てしまいました」

 しかし、ココロの驚きはここでやってきた。視線の先にいる女性を見て、ココロは一切の言葉を失った。ココロは、夢に見た自分の姿を見た。まるで、なりたい自分を映してくれる鏡の前に立ったかのような奇妙な気分に陥っていた。
 立ち尽くすココロの隣で、ブランはおもむろに立ち上がると、女性に向かってやわらかくお辞儀した。

「一月振りになりますね、ピアさん」

 ブランの挨拶に、女性は嬉しそうに答える。

「覚えててくれたんですね。よかった。こうやって学校で会うのは初めてだから、不安だったんですよ」
「そこまで物覚えが悪いように見えますか?」
「いいえっ、そんな。そういう意味ではなくて、ブランさんは色んな方とお会いする機会が多いでしょうから、わたしのことなんて覚えている余裕はないだろうと思いまして」

 ピアと呼ばれた女性が慌てて弁解しようとするのを見て、ブランは朗らかに笑う。

「おっしゃるとおり、覚え切れていないところもあるんですけどね。ピアさんのことは忘れようにも忘れられません」
「あまり良い意味で言われているような感じがしないのは、わたしの気のせいでしょうか」
「さあ、どうでしょうね」

 ブランとピアのやり取りは、ココロにはほとんど届いていなかった。ただ、ぼんやりと二人は知り合いなのだろうということが意識の端をよぎっただけで、残りの意識はすべてピアに向かっていた。
 ピアを見て、その姿を目に焼き付けることで、まるでココロ自身がそうなれるような気さえしていたのだ。
 しかし、ピアを眺めていたココロの視線にピアの視線が重なると、そんな夢の時間は一瞬で霧散した。たしかに、そこにはピアという人格がいて、ココロと向き合っていることに気づかされたのだった。

「こちらはブランさんのお友達? かわいらしい方ですね」
「ええ、それなりに」

 ブランのからかうような言葉は、会話の糸口を与えてくれたものだろうということはココロにもわかったが、ココロはやはりピアから目を離せなず、なにも話せないでいた。

「ココロ?」

 訝しがるブランに追い立てられ、やっと、ココロは失った言葉を取り戻す。

「は、はいっ。ココロです!」

 ピアがココロに笑いかけてくる。ピアの年上らしい見守るような笑顔を前にしても、ココロの動悸は収まる気配を見せない。

「ココロちゃん。ふしぎな響きのお名前ね」

 ココロは言われるままに頷いた。ピアがふしぎだというなら、ココロという名前はふしぎな響きの名前なのだと納得できる気がした。

「わたしはピアというの。今年、この学校で三年生になったのよ。少しだけココロちゃんとブランさんのセンパイ。よろしくね」

 ピアの言葉を待って、ブランが講堂に目線を遣った。

「ところで、ピアさんは出席しなくていいんですか?」

 ココロもつられて講堂を見る。そういえば、と今更ながらにココロはここでなにをしていたのか思い出す。入学式の開始時間に間に合わず、講堂の前で立ち往生していたのだった。

「今まで入学式の後のオリエンテーション用の資料を作っていたんですよ。伝達が滞っていたらしく、資料が今日まで用意されていなかったんですね。それで、先生方が出席しないわけにはいかないので、わたしが代わりに用意をしていたんです」

 そこまで言って、ピアはブランとココロを順に見た。

「そういえば、お二人はどうしてこんなところに?」

 ピアのことから意識が逸れて会話の流れが飲み込めてきたココロは、ピアに事実を告げるのが恥ずかしく思われて顔を伏せてしまった。
 しかし、ココロのそんな挙動に構わず、ブランは淡々と質問に答えた。
 話を聞き終えると、ピアは笑顔を隠して、残念そうに言う。

「そうでしたか。それじゃあ、入学式は途中からになってしまいますが、わたしと一緒に中に入りましょうか」

 ココロとブランは、ピアの後ろについて講堂の入り口にたった。ピアは躊躇うことなく扉に手を掛けた。

 講堂の中は、外から窺える以上の大きさだった。多くの人がいるにも関わらず、ひしめきあっているように見えないほど余裕がある。
 そして、講堂の中心には、なぜかきれいな弧をいくつも描いている噴水があった。遠目でもわかる、透明の緑色。妖精の泉を噴水にしたものなのだろう。ココロは好奇心に唆されて、そのまま中を見渡す。
 ピアの肩越しに見える遠くのステージ上では、男が入り口の開閉に気を留めることなく話している。どうやら、先ほど話していた声とは違うものであるようだった。ステージから視線を落とすと、同年代と思われる男女が様々な顔をしているのが見えた。大半は、もうすっかり長話に疲れきってしまっているようだった。

「ピア? 早かったわね」

 ピアが扉を閉め切ってまもなく、女性がやって来た。女性は名札をつけているようだったが、ココロの位置からは名前までは確認できなかった。ピアとのやり取りで、女性がこの学校の教師だということはわかった。
 ピアと女性が短く言葉を交わすと、ココロとブランは女性から空いている席に座るよう指示された。
 ココロたちはピアの見送りを受けて、適当な席に腰を落ち着けた。講堂に入ってきたときに話していた男の話が終わると、次にまた別の男が出てきて挨拶を始めた。

「いつまでやってるのかしら」

 小声で、しかし刺々しい声でブランが言った。ココロはブランを宥めるつもりで、
「だよね、そろそろお腹空いたよね」
 と言ってみたのだが、ブランは呆気に取られたように言葉を詰まらせて黙った。ココロは思惑が外れたことに疑問符を抱きながら、スピーカーから聞こえてくる声に耳を傾けた。



「ご入学、おめでとうございます」

 聞き覚えのある声が聞こえてきた。ココロはハッとして耳を尖らせる。軽く寝入っていたようだった。チラリと横を見ると、ブランはしゃきっとした姿勢で座り続けている。見よう見真似で、ココロはブランの姿勢を作った。
 ステージを眺める。ステージ上には、ピアが立っていた。
 ピアは新入生の全体を幾度か眺め、ゆっくりと話し始めた。

「先生や理事の方が多くのことを話して聞かせてくださったので、わたしの言えることはほとんどありません」

 ささやくような笑い声が、教師陣や新入生の一部から洩れた。それを受けて、にわかに講堂が騒がしくなる。しかし、ピアは慌てることなく、マイクを通しているとは思えないほど澄んだ声で続けた。

「これから、様々な勉強を通して、行き詰ること、途方に暮れることがあるかもしれません。しかし、あなたたちの先輩として、わたしたち上級生は助力を惜しみません。困ったときは遠慮なく頼ってください。では、最後に」

 もう一度、ピアは新入生を見渡した。一人一人、全員と視線を合わせるように。

「それぞれの夢が叶えられるよう、お互いにがんばりましょう」


     つづく。

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